大統領選より「その後」の政情に関心

アルプスの小国オーストリアで24日、大統領選挙が実施される。社会民主党出身のハインツ・フィッシャー現大統領は2期12年を終え7月、退陣する。6人の候補者が大統領府のホーフブルク宮殿入りを目指して選挙戦を展開中だ。オーストリア大統領選にどれだけの意義と価値があるかは別問題として、ウィーンに居住する外国人ジャーナリストの一人としてその見通しをまとめた。

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▲大統領選を報道する日刊紙エステライヒ4月14日付

ズバリ、誰が大統領(任期6年)になってもオーストリアはいうまでもなく、欧州の政治に影響はない。名誉職であり、その政治権限は限られているからだ。それでも紹介しようと考えたのは、大統領選挙後のファイマン連立政権に影響が出てくると予測されるからだ。すなわち、大統領選そのものではなく、「その後」の政情に関心があるからだ。

まず、簡単に6人の候補者を紹介する。与党「社会民主党」からはルドルフ・フンドストルファー前社会相(64)が出馬し、政権パートナーの「国民党」はアンドレアス・コール元議会議長(74)を擁立。第1回投票で過半数を獲得できる候補者が出ないだろうから、候補者は4週間後に実施される決選投票(5月22日実施)に進出できる上位2名入りを目指すが、与党擁立の両者とも決選投票へ進出は難しいと予測されているのだ。与党候補者が第1回選挙で敗北を喫することは過去の大統領選ではなかった。

世論調査で上位に予測されている候補者は、野党第一党の極右政党「自由党」のノルベルト・ホーファー第3国会議長(45)、それに野党「緑の党」のアレキサンダー・バン・デ・ベレン元党首(72)、イルムガルド・グリス元最高裁判所長官(69)の3人だ。難民受入れ問題で強硬姿勢を主張してきた「自由党」擁立のホーファー議長の票が伸び、トップを走っていたバン・デ・ベレン氏と肩を並べている。6番目の候補者はリハルド・ルーグナー氏(83)だ。実業界出身で社交界の変わり者で有名だが、泡沫候補者に過ぎない。

そこで決選投票に与党候補者が進出できない場合を考えてみたい。ひょっとしたら、社民党と国民党から構成されるファイマン連立政権が大揺れになるかもしれないのだ。

大統領選の敗北を受け、その責任が党内で追及されるだろう。特に、国民党のラインホルド・ミッターレーナー党首(副首相)は責任を取って党首を辞任する可能性が高い。国民党は本来、ニーダーエストライヒ州のプレル知事を擁立する予定だったが、同州知事が土壇場で出馬を断念。その為、コール氏を急遽擁立した経緯がある。

国民党指導部と州国民党内で権力争いが展開されていると噂されている。そこに、ヨハナ・ミクルライトナー内相が今月10日、突然辞任を表明し、出身地のニ―ダーエステライヒ州に戻るということになったのだ。内相の辞任表明をメディアから聞いたというミッターレーナー党首はプレル州知事に対して、かなり不満が溜まっているはずだ。

そこで大統領選後、国民党党首(副首相)は大統領選の敗北の引責で辞任し、党首にラインホルト・ロパトカ院内総務を抜擢し、国民的人気の高いセバスチャン・クルツ外相を副首相にする人事が国民党内で呟かれているという。

ヴェルナー・ファイマン首相(社民党党首)も無傷では済まないだろう。首相の難民政策の揺れを批判する声が社民党左派から聞かれる。党首の辞任要求が出てくるかもしれない。

ただし、、連立政権の解消、早期総選挙実施は目下、考えられない。現時点で総選挙をすれば、難民問題で支持を拡大する野党「自由党」に政権を奪われる事態が予想されるからだ。

大統領選の予測というより、その後の政情について多く言及したが、先述したように、大統領選の選挙結果より「その後」の政情に関心が集まっているのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年4月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。