【映画評】孤独のススメ

2016年04月20日 06:00

オランダの田舎町で暮らす初老のフレッドは、日曜日の礼拝以外、人付き合いも避け、ひっそりと暮らしていた。妻に先立たれ、息子も家を出たフレッドの毎日は、孤独なものだったが、ある日、突然、言葉も話さず過去も不明の中年男テオが現れ、フレッドの家に住み着く。奇妙な共同生活は男2人の間に静かな友情を育み、やがてフレッドの単調な生活を変えていくが、信仰厚い田舎町の人々は、そんな彼らを問題児扱いし排除しようとする

田舎町で暮らす初老の男が過去も言葉も持たない不思議な男との関わりで変化していくオランダ発の人間ドラマ「孤独のススメ」。地味な俳優、少ないせりふ、朴訥としたストーリーと、決して派手さはないのだが、とぼけたユーモアと意外なほど深いテーマが、わずか90分足らずの映画の中に隠されている。ルールに縛られていたフレッドの日常を、いい意味でかき回す、過去を持たない男の存在は、誰かと人生を分かち合うことの喜びを教えてくれる入り口なのだ。向かい合って食事し、サッカーボールを蹴り、パーティーの余興で並んで歌う。そんな何でもないことに喜びがある。平等や博愛を説きながら、自分たちのコミュニティーから異分子を排除しようとする教会の狭量と対比するかのように、自由を得たフレッドの毎日は輝きはじめる。表情が乏しいフレッドを演じるトン・カスの生真面目なおかし味が、この物語の隠し味だ。

だが本作には実はもうひとつのスパイスが。終盤に、フレッドの息子がなぜ家を出て、父子は絶縁状態なのかの理由がわかるのだが、それは、天使の声を持つ息子が歌う「ありのままで生きさせて。それが、私の人生!」という歌詞そのものだ。さらに、妻にプロポーズしたというスイスのマッターホルンの壮麗な風景が、主人公と観客に大きな開放感をプレゼントしてくれる。世界中の映画祭で喝采を浴びたこのオランダ映画は、実にチャーミングな人生やり直しムービーなのだ。

【70点】
(原題「MATTERHORN」)
(オランダ/ディーデリク・エビンゲ監督/トン・カス、ルネ・ファント・ホフ、 ポーギー・フランセン、他)
(ありのままに度:★★★★☆)

この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年4月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

 

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