マイナス金利は非常時の対応にも障害に

4月14日に熊本で大きな地震が発生し、16日にはマグニチュード7.3の地震が起きた。その後、過去にないような余震が続き大きな被害が発生した。ただし、日銀は今回の震災に絡んでは特に臨時の資金供給オペなどは行わなかった。

2011年の東日本大震災の際には週明けとなる3月14日に日銀は9時1分(過去最大規模の7兆円)、10時30分(5兆円)、12時50分(3兆円)の3回に分けて、総額15兆円の即日資金供給オペを実施した。しかし、今回は淡々と国債買入をオファーしたのみとなった。

これは津波による未曾有の被害が生じた東日本大震災の際と今回震災の被害規模の違いとともに、首都圏への直接的な影響等などにより、資金供給の必要性の有無の判断が働いた可能性がある。また日銀の異次元緩和で、すでに大量の資金が当預に積み上がっているということもあり、今回の資金供給は見送った面もあるかもしれない。

ただし、金融市場が動揺を示すような状況となった際には、2011年の東日本大震災のときのような即日資金供給オペが可能なのかといえば、そこにマイナス金利という障害が発生することになる。

もちろんそういう際には、臨時の金融政策決定会合を開催し、即日資金供給オペにより当座預金に積み上がった分については、マイナス金利は適用しないような措置が取られるとは思う。しかし、それはそれで何のためにマイナス金利政策を行っているのかという疑問も生じよう。

今回の震災被害に対する募金などについてもマイナス金利が影響する可能性もある。つまり、募金の振込先が限られており、震災の募金窓口となっている金融機関の預金増加分が日銀の当座預金に積み上がるとマイナス金利に晒される懸念がある。善意により送られた資金に対して日銀がペナルティを課すような事態もありうることになる。

ちなみに日銀が18日に公表した業態別の3月の日銀当座預金残高によると、マイナス金利が適用される残高分が29兆7240億円になった。2月の22兆3030億円からさらに増加していた。

19日の日経新聞によると、三菱UFJ国際投信や大和証券投資信託委託などは、マイナス金利に伴う負担を投信の基準価格に反映させる方針を決めたそうである。間接的な格好ではあるが、個人にマイナス金利分の負担が掛かる格好となる。

異次元緩和でいっこうに物価は上がらず、日銀はここまで(マイナス金利にまで)追い込まれてしまった感もあり、本当にマイナス金利政策は必要なのかという疑問があらためて生じよう。

4月27日、28日の金融政策決定会合では震災の影響も意識して、追加緩和か何かしらの補完措置が検討される可能性はある。ただし、マイナス金利の深掘りについては逆効果となろう。量にも限界はあるが、新たな資金供給のオペレーションなりでの工夫も求められよう。その際にもマイナス金利がむしろ邪魔になる懸念があることで、この際、無理を承知で指摘したいが、マイナス金利を止めるという選択肢はないのであろうか。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。