被災地ボランティアは情熱と同じくらい思慮が大切 --- 天野 貴昭

今月14日にぼっ発した熊本地震ですが、現地では物資もボランティアも集束しているのに現場へ届かないという事態が引き起こっている様です。この現象は決して災害現場に限った問題ではなく、我国社会が抱える問題を浮き彫りにしていると感じています。

今回は阪神大震災から20余年間で、全く改善できなかった我国ボランティアの運用体制を悔いながら、僕の経験談を書き綴りたいと思います。

やる気だけで固まる集団の脆さについて

阪神大震災のあった1995年、僕はある社団が企画したボランティアツアーを利用して兵庫県の被災地に入りました。もっとも参加理由は「友人がいくと言うので手続きを手伝った際の成り行き」でしかなく、僕にはやる気のかけらもありませんでした。

兵庫にいたボランティアメンバーは当然ながら皆高い情熱を持っていました。

それは勿論素晴らしい事なのですが、「全くやる気のない僕」が冷静に観察して行くと次第にある事に気づき始めました。それは「やる気のある人」の中に幾人かの「救援に来たというよりは、自らの情熱を昇華したいだけの人」が混じっていたという事です。

だから荒天などで活動が出来ない日の彼らはどこか欲求不満状態でした。

活動中、とある大学のボランティアサークル同士が炊き出しの場所取りで大ゲンカし、住民があきれ果てている…という報告も聞きました。恐らくはこの『情熱を昇華したい者同士』が衝突したのだろうと思っています。

活動の出来ない日に唯一元気だったのは「全くやる気のなかった」僕一人だけでした。僕は全くやる気がなかったので、UNOの様なカードゲームを始め沢山の「暇つぶしアイテム」を持参していました。雨の日は欲求不満気味のメンバーとそんな不穏な雰囲気に怯えるメンバーを誘い、随分とゲームをしたものでした。

些か騒ぎすぎて「静かにしてくれ」とたしなめられた事は大きな反省点でしたが、活動終盤に社団職員から「あんたは『ボランティアのボランティア』をしてくれたね、ありがとう」と謝辞を述べられ、うっかり泣きそうになったのは内緒であります。

「情熱」と「思慮」の振り分け

そんな僕が現地で受け持った活動は「常時は事務所で待機し、各活動拠点でトラブルに陥った際にサポートに向かう」というものでした(…まぁ“パシリ”ですね.笑)

受け持った理由は只ひとつ「誰もやりたがらなかったから」です。やる気ある皆さんは被災者と直接対面する前線での活動を望まれました、逆に言うとやる気のない(活動に来た友人の手伝いが主目的だった)僕にとってこれは「天職」でもありました。

特に「地元小学校で行う運動会で配る景品を支援物資から選別する」という作業へのヘルプは特に大変だったので今でも良く憶えています。要請が来た理由は「選別班のリーダーが運動会3日前に逃走したから」でした。

当時は逃走したリーダーを強く責めていましたが、今思うと無理も無かったとも思います。送られてくる支援物資のうち約半分は「只のゴミ」で、それが教室ほどの部屋に山積みになっていました。逃走した彼は「仕分け」という誰もやりたがらない作業を黙々と続け、間に合わない事を悟り逃走した様です。

脱走した彼も思慮が足りなかったと思いますが、「使い古した習字セット」や「水垢のついた風呂の椅子」を贈られても正直困り果てるしかなかった訳で、彼もまた「思慮なき情熱の被害者」だったのだろうと思っています。

ともかく運動会の期日は動かせません。僕と救援を依頼された運動会班のサブリーダー2人は残り2日間で「粗大ゴミの処理と景品探し」を決行する事になりました。

やる気がないことは必ずしも悪いことではない

我々がまず始めた作業は「景品探し」ではなくて「仲間探し」でした。

ボランティアには我々の様に一定期間宿泊従事する者と、一日だけ参加するスポット型の人がいました。僕らはスポットさんの中から(今で言う所の)ファシリテーター適正のある方を探しました。

現場をファシリテーターに委ねた後、我々は現場で判断し難い事態が起こった時の一時的判断と、社団職員に報告して判断を仰ぐ「連絡係」に専念しました。具体的には千羽鶴などの「捨てるに捨てきれない支援品」の処理法や、膨大な量のゴミの置き場の確保作業などです。

現場の独断暴走は絶対避けねばなりません。しかし職員も忙しいですから頼り切るわけにも行きませんし、判断をいちいち待っていては作業が終わりません。

「やる気のない僕」がした仕事は「やる気ある人の活動環境作り」だったという訳です。そして我々は、なんとか約1日半で景品の仕分けと廃棄品の振り分けを終わらせる事が出来ました。

「被災現場には情熱と同じくらいの思慮が大切」これが被災地で学んだ僕の結論でした。

…この経験談が幾ばくかでも被災地の皆様のお役に立てば、とても嬉しく思います。

天野貴昭
トータルトレーニング&コンディショニングラボ/エアグランド代表