次の世代に戦争とは何かを伝える115通の手紙

2016年04月26日 06:00

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(写真)115通の手紙の実物。本書より引用。

あと数ヶ月も経てば暑い夏がやってくる。この時期になると、テレビや新聞でも戦争関連の特集が組まれるので考える機会が増えてくる。昨年は戦後70年という節目の年であり、多くの論議もあったため過去の記憶をよみがえらせた人も多いことだろう。

稲垣麻由美氏(以下、稲垣)が上梓した『戦地で生きる支えとなった115通の恋文』(扶桑社)は、結婚して間もない夫を戦争にとられた妻が、戦地の夫に宛てた手紙である。当時の妻の赤裸々な夫への思いがつまびらかに綴られている。

通信手段が発達したいまでは考えも及ばないが、「愛する人に気持ちを伝えたい」と思う妻の実直な思いは、読む人の心を揺さぶらずにはいられない。

夫である山田藤栄さんは、1944年にフィリピン・ミンダナオ島に赴任して1152人の部隊を率いていた。しかし、部隊の9割が戦死した激しい戦闘と飢餓のなかで決して手放さなかった物があった。それが妻からの115通の手紙である。なお、藤栄さんは戦後、戦争での体験をほとんど語ることはなく1997年に永眠している。

稲垣がこれらの手紙と出会ったのは2007年のことである。鎌倉在住の渡辺喜久代さんから、「見せたいものがある」と手紙の束を見せられた。手紙は喜久代さんのご母堂、しづゑさんが80年近くも前、戦時下の1937年12月から翌年12月にかけて綴った恋文だった。

稲垣の目に「愛する私のお父様」「恋しいパパ様へ」という言葉が飛び込んできた。「この手紙は次の世代に戦争とは何かを伝えるのに役に立つかしら?」。喜久代さんの言葉が刊行のきっかけになったという。手紙の束を見せられた稲垣は、これらの手紙を世に出さなければならない強い使命を自らに課した。その後、6年にもおよぶ入念な調査をおこない本書を上梓するにいたる。戦後70年を経て世に出るということは、そこには何らかのメッセージがあると考えることもできるのだろう。

また、当時の通信手段や検閲状況などの時代背景についても丹念にまとめられており、史実としての価値も高い。戦争を歴史上の出来事として考えられるようになっている今日、その時代を生きた人の言葉を受け止めることは意義のあることだ。

最後に、本書の編集者である秋葉俊二氏(扶桑社・書籍編集部編集長)の一文を引用し結びとしたい。「自戒を込めて知っていただきたいと思う。戦時下にこんな夫婦がいたことを、こんな軍人がいたことを、こんな甘くせつない手紙があったことを、そして二度と繰り返してはいけない戦争の現実を。」

尾藤克之
コラムニスト/経営コンサルタント。議員秘書、コンサルティング会社、IT系上場企業等の役員を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ)『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など多数。
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尾藤 克之
コラムニスト/経営コンサルタント

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