北朝鮮5回目核実験と日本の安保

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澤田哲生 東京工業大学助教

北朝鮮が第5回目の核実験を行うらしい。(編集部注・4 月26 日時点では行っていない。ただし潜水艦搭載ミサイル(SLBM)の実験を25日実施。また核施設でも動きがあるという)北朝鮮は、これまで一旦ヤルといったら、実行してきた実績がある。有言実行だ。第5回目の核実験を行うとすると、それはどのようなものになるのだろうか。そしてその狙いは何か。

 核兵器の基本形とは

先進核保有国が標準的に配備している核は、多弾頭式である。大陸間弾道ミサイルは一旦大気圏外に出て、その先端に取り付けてある複数の核弾頭を格納したミサイル部分が開いて中に格納してあった弾頭が放たれる。これは、大気圏に再突入するから、「再突入ヴィークル(vehicle: 乗り物)」と呼ばれる。核の乗り物だ。

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(図1)多弾頭式再突入ヴィークル(Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle)のイメージ図

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(図2)多弾頭式核爆弾

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(図3)多弾頭式核ミサイルの先端部位の組み立て

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 (図4)核弾頭(W88)の構造模式図

 北朝鮮が実施する核実験の可能性としては3つの可能性がある。

1)核爆発装置(核爆弾)を内蔵した再突入ヴィークルの実機試験(大気圏内)

2)核爆発装置(核爆弾)を内蔵した再突入ヴィークルの模擬試験(地下)

3)核爆発装置(核爆弾)のさらなる小型高性能化

北朝鮮はすでに以下の核兵器をシステムの技術を持っていると考えられる。要素技術とは以下の3点である。

  • 小型化可能な水素爆弾(第4回目の核実験—強化爆弾+水素爆発)
  • 大陸間弾道ミサイル(人工衛星技術)
  • 再突入ヴィークル(イラスト参照)

これらの要素技術を組み合わせれば、1)も2)も可能である。

 北朝鮮の行うシナリオとは?

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(図5)再突入ヴィークルのイラスト

 ただし、1)は大気圏内核実験になる。1963年に部分的核実験禁止条約(PTBT)が発効した。それ以降、核保有諸国は大気圏内、宇宙空間、水中での核実験を行わないことを申し合わせて履行している。

もちろん、北朝鮮がその気になれば出来ない訳ではないが、そうでなくても核保有国のみならず、北朝鮮が核武装に走り続けている現状には世界から非難の声が上がっている。米ロは勿論だが、中国が黙ってはいまい。そこまでして、大気圏内での核実験に踏み切って得るものはないだろう。

2)に関して一言でいえば、「やる意味がない」である。核弾頭仕込みの再突入ヴィークルを地上で爆発させても、結合された要素技術の総合的な検証にはならないからである。

では残された3番目のオプションはどうか?

多弾頭型の大陸間弾道ミサイルの弾頭は、再突入ヴィークル込みで一体あたり200kg程度にコンパクト化しなければならない。こうすれば、一体の大陸間弾道ミサイルで、弾頭が6本は仕込める。そうすれば、一回のミサイル発射で6箇所の目標を同時に攻撃できる。

だから、前回第4回目の実験で成功したとも考えられるブースト型核爆発を利用した多段式核爆発システムのさらなる小型高性能化を目指すと考えるのが妥当ではないだろうか?

しかし、その場合も、実際どの程のパフォーマンスが実証できたかは、当事者にはわかっても、われわれには知る手立てがない。

北朝鮮が、着実に核武装を進めているらしいという推測しかできないのである。

 

わが国は、原子力(核)の利用を平和利用に限ると法律で定めている。また、非核三原則をプリンシプルにしている。日本の原子力平和利用にとって、近隣の国々の核開発は大きな脅威である。原子力の平和利用を護っていくためには、核の実態がどのようなものであるかを認識しようとすることが重要ではないかと考える。

澤田 哲生(さわだ てつお)

1957年生まれ。東京工業大学原子炉工学研究所助教。工学博士。京都大学理学部物理科学系卒業後、(株)三菱総合研究所入社、ドイツ・カールスルーへ研究所客員研究員(1989-1991)をへて東工大へ。専門は原子核工学、特に原子力安全、核不拡散、核セキュリティなど。最近の関心は、社会システムとしての原子力が孕む問題群への取り組み、原子力・放射線の初等中等教育。近著は、「誰も語らなかった福島原発の真実」(2012, WAC)。