フリーランス医師は医療崩壊を防ぐ

2016年04月29日 06:00

「時短ママ女医の活用で医療崩壊を防ぐ」というテレビ特集があった。「産婦人科医が7→4人に減って、残った4人の医師がヘトヘトだったのを、時短ママ女医を4人雇って、解決しました」といった内容だった。私は「産科がキツいのは24時間365日体制の勤務が必要だからなんだけど…当直は4人で廻しているのか?でも、中高年医師が当直7~8回/月って、キツすぎ」と思っていたら、最後に短く「当直にも外部の医師を登用しています」と放送された。

これは「時短ママ女医の活用」ではなく「フリーランス医師の導入で医療崩壊を防いだ事例」が正確なタイトルだと私は思う。

フリーランス医師が最も多い科は麻酔科であるが、最も儲かる科と言えば、「産婦人科」、中でも「産科」だと思う。2004年からの新研修医制度に加えて、2006年の福島県立大野病院産科医逮捕で産科医療は全国的に荒廃した。タダでさえ「多い当直」「しかも当直手当は○千円レベル」「高い訴訟リスク」にもかかわらず「全科同一賃金」であり、「女医率が高い→少数の男性医師や独身女医に当直が集中」していたところへ「運が悪いと逮捕される」という悪材料が加わった。「もうやってられん!」と、ゆったり勤務の人間ドックなどに転職する元産科医が相次いだ。各地の産科病棟は次々と閉鎖し「妊婦たらい回し」が多発したが、中には腹をくくって「産科は何が何でも続ける!金がかかってもいいから産科医を確保せよ!」という病院も出現し、結果的に集約化が進んだ。

ゆったり病院に転職した元産科医も、しばらく休んで心身が回復したころ、人づてに「一回○万で産科当直してくれない?」といった依頼が来て、好評だと別の病院からも依頼が来て…「そういえば、オレ、お産とか帝王切開が好きだったよな」と初心を思い出して、「産科当直一回○万」「帝王切開一件○万」という出来高制の契約で仕事量を調整して、腕一本で病院を渡り歩く…という産科医を見かける。同時に、中堅医のフリーランス転身を予防するために、常勤医の当直手当も「一回○万」のように実勢価格に近づいた。

産科を舞台にしてテレビドラマにもなった人気漫画「コウノドリ」の主人公は、「助産院で産みたい」という患者に関して、「出産は産科医がいてすぐに帝王切開もできる病院がいい」と言う。ざっくり言って、70~80%のお産は助産婦だけでも対応できるが、20~30%は医師が関与した方がよいし、5~10%は「医者が関与しなかったら、ベビーが死亡もしくは後遺症」、さらに1%ぐらいは「医者が関与しなかったら、母親も死亡」なのが、お産のリスクである。また、どのお産がヤバいのか、お産が始まらないと分からない。そして、産科医がお産に立ち会う最大のメリットは「何かヤバそうなことがあれば、帝王切開に切り替えられる」のだ。

産婦人科は女医率が高く、2004年からの新研修医制度で、女性がキャリア形成する上で最も重要な20代の2年間を「お客様としてゆる~く過ごす」ことが、厚労省より義務付けられている。とはいえ、高齢出産のリスクは変わらないので、本格的に産科医としてトレーニングを始めた数年後には、妊娠・出産・育児時短モードに入る者が多い。その結果、「自分の妊娠や出産経験から、患者の心に寄り添える」と主張するが、外来と正常分娩立ち合いがやっとで帝王切開すら執刀できない産科女医…要するに「口だけ達者で使えないオバサン女医」が、近年ホントに多い。

ゆえに、「日祝夜間の当直ができて、緊急帝王切開もO.K.」な産科医の市場価格は、男女を問わずとても高い。某市立病院で「年俸5520万の産科医」が存在したが、「有能医がフリーランスになれば、このレベルは稼げる」という目安でもある。「市内で産科開業したら一億円補助金」という自治体も現れたが、そのぐらい貴重な人材なのだ。しかも、「23病院妊婦たらい廻し!」のような報道を、ここのところ聞かなくなったことは確かである。

ここ10年間、日本の産科医療に起こったことを雇用の観点から分析してみよう。「年功序列+終身雇用+全科同一賃金」に「女医率上昇+育児支援法」が加わって、一部の有能医師に負担が集中し、「仕事量と給料が超アンバランス」状態が発生した。有能医師はフリーランスに転身して「固定給→出来高制」となり、また中堅勤務医も「実勢価格の当直手当」を得るので、時短ママ女医と中堅医師には相応の収入差が発生し「仕事量と給料のバランス」が改善した。また、分娩施設が集約化され、管理職ポストが減って「筋肉質の組織」っぽくなり、「たらい廻し」も減少した。

「女医増加が産科医療崩壊を招いた」のではない。「女医増加にもかかわらず、日本型雇用を変えようとしなかったことが、産科崩壊を招いた」のである。「時短ママ女医の活用」よりも、「日本型雇用から脱却して、管理職を減らし、フリーランス医師のような成果に応じた報酬体系を整備」すれば、医療崩壊は防げるのだ。

「フリーランス医師」シリーズ 2/5

フリーランス麻酔科医

1966年生まれ。地方の非医師家庭に生まれ、某国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、2012年から、「ドクターX~外科医・大門未知子~」「医師たちの恋愛事情」など医療ドラマの制作協力に携わる。2013年から、東洋経済オンライン「ノマドドクターは見た! 」で論壇デビューし、執筆活動も行う。近著の「フリーランス女医が教える 「名医」と「迷医」の見分け方」で、フリーランス医師の実情をレポートしている。

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筒井 冨美
フリーランス麻酔科医、医学博士

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