FT:サウジの民営化への疑念

今朝、報じられた掲題記事こそ、モハマッド副皇太子(MBS)が掲げる “Vision 2030” – “National Transformation Plan” が抱える最大かつ根本的な問題だと筆者は判断しているが、読者の皆さんはどう思われるであろうか。

Financial] Timesが“Scepticism over privatization in cradle-to-grave Saudi state” (April 28, 2016 9:41pm)というタイトルで報じている記事だ。

この記事は、サウジアラムコのIPOに注目が集まっているが、MBSが明らかにした経済改革案が成功するには、より広範な民営化を必要だ、という記述から始まっており、これまでにも報じられている ”Vision 2030” の内容を解説しているが、筆者の興味を引いたのは、この記事の後半にある次の箇所だ。

今年に入って、海外から大勢の経営コンサルタントがリヤドに招かれ、当該経済改革案の主要部分を担当する経済計画省と、「民営化」に関するブレーンストーミング・ワークショップが何回となく行なわれた。

この作業に参加したある外国人銀行家は、サウジの政策決定権者と経営コンサルタントの間に意思疎通ができていない点がある、として次のように語った。

「これは簡単な問題ではない。・・・経営コンサルは高度3万フィートを飛んでやってきた。・・・彼らはアラブ世界、サウジのことをまったく理解していない。」

つまり、記事のタイトルにあるように、サウジアラビアは、ワッハーブ主義派と結んだ「ダルイーヤの盟約」により正統性を確保したサウド家に忠誠を誓う見返りとして、国民が「揺りかごから墓場まで」、慈悲深き国王の温情により手厚く保護されている国家なのだが、経営コンサルタントたちは、こういったサウジの文化、歴史、国民性等を理解しないままないアドバイスしているのでは、との疑念を呈しているのだ。

たとえば、国家予算の半分以上が公務員への給与となっているが、民営化により人員削減が行われた場合、つい最近発生した隣国クエートの石油労働者によるストライキのような社会不安が起こるのでは、という疑念も報じている。

また、MBSは現在の低油価による財政赤字を補う方策の一つとして、外国人労働者に発行を予定しているグリーンカードからの新規収入が挙げている。外国人労働者の数は、サウジ国民の三分の一を占めている、と伝えている。

当該記事は明記していないが、少数のエリート欧米ビジネスマンを別にすると、彼らこそがいわゆる「3K」の仕事を含め、実労働を一手に引き受けている。彼らには雇用主がスポンサーとして存在しており、もしスポンサーの意に反することをしたら、いつなんどき労働許可書および滞在許可書が剥奪されるかもしれない。だからこそ周辺の低所得国からの、1000万人近くの彼ら出稼ぎ労働者たちは「大人しく」暮らしているのである。

つまり現在の「仕組み」は、社会治安維持方策でもあるのだ。

MBSが掲げた “Vision 2030” なる経済改革案は、社会の仕組みを根本から変更しなければ実現できないであろう。

この「変更」を、既得権益者である王族メンバーたちが、超保守的なワッハーブ主義派の宗教指導者たちが、すんなりと認め、受け入れるだろうか?

とりあえずは5月末、あるいは6月初めに予定されている「具体的方策」内容を待つしかないのだろうが、予断はまったく許さない。展開によっては、「地政学リスクの爆発」につながるかもしれない。

まさに「サウジの国家体制不安」を注視せよ、だ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年4月29日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。