松本徹三さんへの手紙

2016年04月30日 06:00

拝啓

若葉の緑が目にしみる季節、松本様にはますますご清祥のことと存じます。

このたびは、アゴラに掲載された松本様の記事「テスラに学べば日本の「商社」は駆逐されない」にて拙文「日本の「商社」がテスラに駆逐される日」に、大変乱暴な論理展開であったにもかかわらず暖かいお言葉を賜りまして、まことに有難うございました。その後の「「日本の商社」へのエール」と併せて拝読し、私より格段に精緻な思念を30年以上も前にお持ちになり、しかもそれを私の尊敬するソフトバンク(モバイル)や、伊藤忠商事で実践されてきた先達がいらっしゃったことに心から感銘を受けました。

そこで、大変僭越ではございますが、松本様の2つの記事のいくつかのキーメッセージに対する私の感想を申し上げさせていただきたく存じます。

これまでの自動車産業は、長年にわたる技術開発の積み上げと精緻な製造システムの構築が必要だったので、部外者がトヨタ自動車などの牙城に肉薄することは全く不可能だった。また、その一方で、トヨタ自動車などの大メーカーは、世界各地での販売体制の整備に、商社の力などは殆ど必要としなくなっている。

しかし、EVの時代になると、部品を組み合わせるだけで自動車そのものはかなり簡単に出来てしまい、むしろ「電力の供給システム」や、「情報通信技術を駆使した運行管理システム」などによる差別化が進むだろうから、テスラの様な斬新な発想を持った全く新しい会社が、瞬く間に業界のメインプレイヤーに成長する可能性も相当高い。

全く同じ考えでございます。例えば、韓国の雄、現代・起亜自動車は、世界のEV化の潮流のなかで「EVアイオニック」を6月に発売予定です。業界最高水準である10年/20万キロメートルのバッテリー寿命を保障するそうで、テスラのモデル3の航続距離が300キロを超えるのを意識して、現代の担当者は「300キロメートル以上の長距離走行ができる電気自動車の核心はバッテリーだ。」と明らかにしました。(出典:中央日報)

しかし、同じ記事で現代グループの関係者は  「いまも多くのバッテリーメーカーが赤字を出しているが、われわれが参入することが正しいのかは懐疑的。」と明らかにし、むしろ 電気自動車だけでなく水素燃料電池自動車の開発にも拍車をかける計画を明らかにしました。これは現代自動車がEV市場で頭角を現せないのではという懸念の現れとも受け取れます。

一方で、おなじ韓国でリチウムイオンバッテリーを製造するLG化学は、EVの将来性を見越し、先行する日本メーカーを「攻めの営業と迅速・膨大な資本投下」で凌駕しようとしています。日本のマスコミは報道していませんが、LG化学が年間22.9万台分のバッテリーを製造するギガ工場をワルシャワに建設するという報道が10日前から駆け巡っています。LG化学は韓国・中国・アメリカに工場を持ちますが、それらはメガ級で、このワルシャワはギガ級です。何故ハンガリーかというと、同社はすでにGMオペル、ルノー、ダイムラー、フォルクスワーゲン、アウディ、ヴォルボなど主要欧州EVメーカーと契約しているからです。

これは、半導体・液晶・スマホで、追いつかれて追い越された苦い経験を持つ日本のメーカーにとっても脅威ですが、もっと深刻なのは現代自動車です。「韓国の自動車産業の盟主が現代から部品メーカーのLGにとって変わられる」可能性があるからです。日本と違って韓国は政府のバックアップが生命線。見捨てられたら終わりです。

従いまして、自動車メーカーは、もはや自己完結的に自動車単体を作り、売るという思想を改め、自動車部品を外製化し、自らは自動車そのものがパーツとなるようなシステム構築に参画する、好まざるとに関わらずその方向にシフトしていかざるを得ないのだろうと私は思います。

松本様はこのようにおっしゃいます。

1)IoE(至る所にある無数のDeviceが無線で繋がれている世界)

2)CloudとそれがサポートするBig Data(集合知)を利用する諸サービス

3)AI及びRobotics

を三種の神器として、これらの結合が幾何学級数的に市場の変革をもたらす近未来の世界は、総毛立つほどに刺激に満ちている。

しかも、この世界では “Winner takes all”という言葉がある様に、「ユーザーが求めるものを、誰よりも安く供給できる仕組みを、誰よりも早く作った企業」が、市場を総取りする可能性がある。そして、一旦始まった雪だるま効果は、留まるところを知らず拡大していく。

トヨタ・日産・ホンダ・三菱がその「Winner」になるためには、外部のパートナーと組むべきです。 その相手は、松本様の仰る「電力の供給システム」や、「情報通信技術を駆使した運行管理システム」の担い手、すなわち電力会社・通信会社・鉄道会社などのインフラ企業です。しかし、これらのビジネスは公益を担う「規制産業」であり、元々の出自も非民間であったため、官僚体質が染み通っています。(唯一の例外は松本様の所属されていたソフトバンクで、私は彼らに通信だけでなく、交通・電力への参入を期待しています。といっても、もう入られていますが。)本業に忙しい彼らにこのパラダイムシフトを認識してもらい莫大なビジネス機会の存在を惹起する必要がありますが、自動車メーカーだけでそれをするには重荷でしょう。

そこで、自動車メーカーとインフラ企業の間をとりもつ触媒役(カタライザー)・調整役(ファシリテイター)が必要になります。商社に是非その役回りを担っていただきたいと思います。松本さんはもう25年以上前に、ニューヨークの機関投資家との会合でこう述べられたそうです。

「商社の強みは ”Demand Pull”、徹底的に最終ユーザーの立場に立つことだ。我々は何の技術も所有していないが、技術はユーザーが求めるものを実現する為の道具にすぎない。技術や製品が先にあり、これを何とか売りつけようとする姿勢は間違っている。」

商社は何も所有していません。「車を作る技術も」「インフラを運営する既得権」も。だから、顧客に寄り添えます。それに商社はインフラ企業との関係も深いし、日本の業界事情に精通していますし官庁とのつき合い方も心得ていらっしゃいます。Appleやテスラや韓国勢に圧倒的優位性があります。商社は優秀な人材を抱えたエリート集団ですし、圧倒的なマーケティング能力があるので、自動車や電力・交通インフラといったパーツを統合して、どうマネタイズするかというビジネスモデルの構築にも長けています。

「会社を一つの枠に嵌めず、チャンスのあるところには次々に手を伸ばし、自由奔放に組織を増殖させていく」という「アメーバ的な生き方」は、まさに日本の総合商社の将来像でもあるべきだと思う。」

完全に同意します。松本様は商社の問題点をこう指摘されます。

専門性を極める事に対する人事的インセンティブに欠け、この為、多くの有能な社員がゼネラリスト志向になり、その結果として、多くの産業分野では、常に主たるプレイヤーに対する従属的な立場に甘んじる状態になっている。

内部の階層が過大なので、意思決定に時間がかかりすぎる上、コスト構造も非効率とならざるを得ない。

若輩者の戯言と思って聞いていただきたいのですが、松本様の指摘する「縦方向の組織硬直性」に加えて、商社は「横方向の組織硬直性、即ち隣の部署が何をしているか解らないセクショナリズム」も抱えていると思います。

例えば、伊藤忠商事は、繊維、機械、金属、エネルギー・化学品、食料、住生活、情報・金融の7つのカンパニーから成ります(会社組織図)。IoE(IoT)ビジネスはその全ての部門にまたがります。各カンパニーではどこまで、横串をさして部門横断的なビジネスの仕込みがなされているのでしょうか。「日本株式会社」という官僚制を打破するには、まず自社の官僚制を打破するのが大前提です。松本様のおっしゃる「アメーバ的な生き方」を是非指向していただきたいと存じます。

例えば、日立製作所はこの4月から情報・通信システム社を解体、カンパニー制を実質廃止して、お客さまごとにゆるやかな連携を目指すビジネスユニット制を導入されました。将来は「日立製作所」の「製作所」をとってメーカーからソリューションプロバイダーへ脱皮するとの話もあるようです。恐らくどこの大企業も、既に問題意識をお持ちで、来るべき新しいパラダイムシフトへの準備をすすめていることと期待します。さすれば、日本の未来は大変明るいと思います。

松本様の電子メールアドレスも解らず、このような文章を公開の場でお送りする非礼を何とぞご容赦くださいませ。もしお許しいただければ、次回帰国の際には、直接お礼に上がらせていただければ幸甚です。

末筆ながら、ご自愛のほどお祈り申し上げます。

 敬具

平成二十八年十四月二十九日

Nick Sakai

松本徹三様

 侍史

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