フリーランス医師は医療の安全にも有用

2016年04月30日 06:00

医師の世界には「○○専門医」のような資格が山ほどある。麻酔科関連だけでも、麻酔科標榜医、麻酔科認定医、麻酔科専門医、麻酔科指導医、小児麻酔認定医、心臓血管麻酔専門医、輸血認定医、蘇生指導医…書くだけでグッタリである。各々の資格は取得・更新にあたって山のような書類を要求され、ただでさえ「患者と向き合っていない」と批判される日本の医師から、ますます患者と向き合う余裕を奪っている。

寿司屋の世界には「寿司専門師」のような資格はないが、問題にはならない。「マズい寿司屋」は一般人相手でもすぐにバレるので客が来なくなり、市場に淘汰されるからだ。医師に専門医制度がある理由は、「一般人には手術や診断技術の良し悪しは分からないので、専門家同士でチェックする」ということになっている。だが、現実には「○○専門医」の関与する医療事故は後を絶たない。

という訳で、2017年から日本専門医機構という天下り…ではなく、一般社団法人による認定制度が始まる。それぞれの学会が勝手に設けた専門医制度を審査して、よい専門医にはお墨付きを与える代わりに専門医の更新料金を一回一万円上乗せして徴収し、個々の医師はさらに厚くなった書類を作成しなければならない。

2005年の構造計算書偽造事件によって、建物の確認申請に必要な書類がザックリ3倍になったと言われるが、2015年には再び「マンションデータ偽装事件」が起こった。原発再稼働の記者会見でも、電力会社は記者会見で30㎝ぐらい書類を積んで安全性をアピールしているが、「じゃあ安心ね」という者はいない。結局のところ、「書類の厚さと安全性」というのは比例しないし、煩雑すぎる書類は余計な手間ヒマを喰うので人手を取られ、現場の安全性という意味では逆効果である。

「専門医の質の維持」という観点からみると何より問題なのは、「医学の進歩からドロップアウトしてしまったが、大学病院や公立病院にしがみついている中高年医師(教授も含む)」というのが、この方法では排除できないのだ。

2004年の医師の新研修医制度(=卒後2年間は厚労省指定病院での研修を必須化)に続き、2006年からは歯科医師の新研修医制度が始まり、薬学部は6年制になった。そして、2017年度からは、卒後3年目以降の研修についても監修されるらしい。一連の制度改革から私が強く感じるのは「若者をそう簡単に一人前とは認めない」「若者の数が減った分、修行期間を延ばすことによって、既得権を維持したい」そして「一日でも長く、支配者として君臨したい」という老人の怨念である。

「リピーター(=医療事故を繰り返す)医師を処分する」も近年よく聞くが、「リピーター」が公になるには最低でも2人の患者が犠牲にならなければならない。最良の安全対策は、「事故をおこしそうなヤバい医師」の段階で排除、少なくとも手術室からは排除すべきである。医療安全という意味でも「フリーランス医師」というシステムは、妙な天下り団体やら書類の山を作らなくても、患者が犠牲になる前にヤバい医師を排除できる優れたシステムだと思う。「就職すれば65歳までの給与や身分が保証される」正社員型の終身雇用制度の方が問題が多いのだ。

私がフリーランスに転身して、「職場での人間関係の悩み」が1/10以下に減った。下手な外科医とは契約更新しないことも可能だし、下手な麻酔科医は病院に雇い止めされるので、トラブルメーカーとは難なく疎遠になれる。私の知る限り、フリーランスとして3年以上サバイバルしてきた医師は、「麻酔スキル」「対人関係スキル」ともに偏差値50以上は保証されていると思う。「銀座で3年以上盛業している寿司屋ならハズレはない」ようなものだろう。

2013年、政府の成長戦略として、「解雇規制緩和特区」すなわち「企業が簡単に従業員のクビを切れる特区を作り、成長産業を育てる」ことが提案された。当面は「弁護士・公認会計士のような有資格者に限定」らしいが、「解雇規制緩和は医師から」と私は提案したい。医師免許があれば「健康診断で日給5万」レベルの仕事は簡単に見つかるのだから、クビになっても飢死することはない。

現在、厚労相を務める塩崎恭久氏は「解雇規制緩和に積極的」らしいが、せっかく厚労相なのだから、医者から試して欲しい。「都内のどこかを医療特区にして、医師は契約社員化、ダメ医者は雇止め」を合法化して、その地域の診療レベルが向上するかどうかを試して欲しい。ついでに特区内では混合医療も解禁して「TPPでアメリカの有力病院チェーンが破綻寸前の大学病院の買収」「40歳以下の雇用は守る、とか言って居直る低能爺医を一掃」「業績連動ボーナスで、有能医師は年俸1億だが無能は即クビ」のような時代が来ないか…と、私は夢想している。

「フリーランス医師」シリーズ 3/5

フリーランス麻酔科医

1966年生まれ。フリーランス麻酔科医。地方の非医師家庭に生まれ、某国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、2012年から、「ドクターX~外科医・大門未知子~」「医師たちの恋愛事情」など医療ドラマの制作協力に携わる。2013年から、東洋経済オンライン「ノマドドクターは見た! 」で論壇デビューし、執筆活動も行う。近著の「フリーランス女医が教える 「名医」と「迷医」の見分け方」で、フリーランス医師の実情をレポートしている。

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筒井 冨美
フリーランス麻酔科医、医学博士

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