フリーランス医師はマタハラを無くす

2016年05月01日 06:00

「マタハラ」という単語を、よく聞くようになった。それは、2012年導入の育児休業法の副作用でもある。この法律は、産育休時短を企業に義務付けたが、「ワーキングママ(以下ワーママ)の作った仕事の穴を誰が埋めるか」については規定がない。大抵の場合は、周囲の支援…というか「同僚を犠牲にしている」ケースが多い。その結果「女性が妊娠したら、あの手この手で退職誘導すべし」という結論に至る企業が出現する。2004年の新研修医制度が、「研修医の当直禁止」を病院に義務付けたが、「当直業務の穴を誰が埋めるか」は配慮されておらず、結果的に医療崩壊の引き金となったようなものである。

そもそも、「マタニティ・ハラスメント」という単語は和製英語であり、米国では聞かない。というのも、米国は労働者を解雇することが日本より簡単なので、「子供の病気で仕事に大穴」系の人材は、正当に解雇可能なのだ。その職員が出産後も、元の90%水準のパフォーマンスを維持できるか、30%に低下するか、やってみないと分からない。米国の企業は、出産後の実際の働きぶりを見て有能ワーママを残し、低能ワーママのみを選別して解雇することができる。ゆえに、妊娠しただけで退職誘導する必要はない。

日本型組織の正社員は、そう簡単に解雇できない。低能ワーママが「3年毎に3回出産すれば、約10年組織にぶら下がる」ことが合法的に可能である。痛い目にあった組織は、「妊娠しそうな女性は、正社員にしない」「妊娠した正社員は退職誘導」と、自衛するようになった。門前払いされた女性の中には「有能ワーママ」になれるポテンシャルを持った人材も含まれていたはずである。法律上の女性保護は日本の方が手厚いが、どう見ても米国の方が女性の社会進出が進んでいる原因はこの辺にありそうだ。

2013年、政府の有識者会議では「成長戦略」の一環として「解雇規制緩和」が提言された。「成長戦略」=「規制緩和」ならば、「女性活用」=「女性の雇用規制緩和」でもある。育児休業法とは「ぶら下がりたい女」にとっては命綱だが、「より高く跳びたい女」には足枷である。私は日本女性の社会進出のために「育児休業法廃止」と「結果を出せなかったワーママの金銭解雇合法化」を提案したい。

「女性を解雇しやすくする」=「女性がライフステージに応じて転職・再就職しやすくなる」でもある。解雇は敗北ではなく失恋のようなものである。日本では社員を解雇する経営者は罵られがちだが、「生涯を共にするつもりのない女は、相手が少しでも若いうちに別れる」のが、せめてもの誠意である。解雇そのものはつらいことだが、人生設計を見直して成長するチャンスでもある。別れを告げられた女は、無駄に執着したり相手をなじるよりは、「縁がなかった」と頭を切り替えて次を探した方が、最終的には幸せになれるものである。解雇とは「より自分にぴったりの新たな居場所へのステップ」と解釈すべきである。

「恋人に別れを告げられない」ためには「魅力的な人間であり続ける」のが最良の方法であるように、解雇されないためには「職場にとって有用な人材であり続ける」のが最良の予防法である。「妊娠・出産に絡んだ退職強要」とは、結局のところ「コイツを時短してまで雇い続けるならば、新人とチェンジした方がマシ」と雇主に判断されたのである。最良の予防法は、「就職~妊娠の間は必死で働いてスキルを磨き、時短でもよいから働き続けてほしい」人材に成長しておくことである。「始業開始とともに仕事に集中し、就業時間中は高密度で働いてアウトプットを出す」「子供に絡んだ突発休でも対応できるよう、仕事は締切の数日前に仕上げる」といったマインドセットも重要である。

「弱い女性を切り捨てるヒドイい会社!」と、被害者意識を丸出しで嘆くヒマがあるならば、切り捨てられないように「強味となるスキル」を身に着けるべきである。築いたスキルのレベル次第では、「元の職場で時短勤務」だけでなく「非年功序列組織に転職」「フリーランスに転身」といった人生の選択肢が増えるのだ。

女性活用といっても、即効性のある特効薬はない。政府にできることは、むしろ余計な保護(=規制とも言う)は廃し、老若男女にとって公平な報酬体系や競争環境を整えるべきである。ムダに「女性管理職3割」のような目標を立てるより、結果をだせない人材は解雇・降格できるような法整備のほうが、最終的には健全な労働市場や社会を創ることができる。我々が目指すべきなのは「女性が長く働ける社会」である。それは決して「女性が長く働ける会社」と同義ではない。

「フリーランス医師」シリーズ 4/5

フリーランス麻酔科医

1966年生まれ。フリーランス麻酔科医。地方の非医師家庭に生まれ、某国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、2012年から、「ドクターX~外科医・大門未知子~」「医師たちの恋愛事情」など医療ドラマの制作協力に携わる。2013年から、東洋経済オンライン「ノマドドクターは見た! 」で論壇デビューし、執筆活動も行う。近著の「フリーランス女医が教える 「名医」と「迷医」の見分け方」で、フリーランス医師の実情をレポートしている。

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筒井 冨美
フリーランス麻酔科医、医学博士

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