パナマ文書・トランプ・テスラから見える米国の底力

拙稿「グローバル経済の終焉とシェア経済の行方」で申し上げたように、グローバリズムは早晩終焉し、IoTとシェア経済がこれからのトレンドとなり、日本は再起すると私は確信としています。で、何でそういう思いを持つようになったかというと、きっかけは何気なく飛行機でみていた映画ターミネーターミッションインポッシブルなんです。スカイネット操る機械軍と対決するシュワルツェネッガー、どんなシステムも世界の果てからハックして敵と戦うトムクルーズ。荒唐無稽のフィクションですが、私の潜在意識に深く刷り込まれたような気がします。

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考えてみれば、アメリカという国は、ハリウッドを使った情報戦が得意なんですね。東西冷戦時には、資本主義・民主主義がいかに素敵かというプロパガンダをエンターテイメントを通じてさりげなく世界にばらまいたことが、ソビエト崩壊の遠因になりました。

2016年4月30日の日中外相会談で、王毅外相は「「中国脅威論」や「中国経済衰退論」をこれ以上まき散らさないように」と日本政府に要求しました。でも、日本政府は「脅威論」は語っても「衰退論」は煽っていません。マスメディアも中国の公式発表6.9%成長をそのまま報じています。しかし、中国は明らかに何かに対して苛立っています。それは最近米国のメデイアが挙って「中国衰退論」を喧伝していることにです。しかし米国には面と向かって言えないので、日本に当てつけるのです。

で、ふと頭によぎったのですが、今世界で起きている諸問題は、アメリカが仕掛けた壮大な情報戦略とすれば辻褄があるんじゃなかろうかと。全く裏付けもない私の妄想ですが、しばらくお付き合いください。

私を含めて、世界の多くの人は、シリコンバレー出身のAppleのスティーブジョブスやFacebookのマーク・ザッカーバーグ 、テスラ自動車のイーロンマスクは、東海岸の政治家やIBMやGMといった古い重厚長大産業への反逆児として新しい風を世界に吹き込んだと感じていますよね。いわば、アメリカ国内の東西対立です。でも、実際のところどうなんでしょうか。

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元々インターネットって、アメリカが軍用インフラを無料で解放したところから始まったわけです。東西冷戦下で軍事・外交では成功したけれど、製造業では日本やドイツの席巻を許し、産業の空洞化が深刻になりました。その起死回生策として、アメリカがIT革命と資本の自由化で、グローバル経済へのパラダイムシフトを成し遂げ、アメリカ経済は見事に再興するのです。世界の人々がApple製品や、ツイッター・フェースブック・Google・YouTubeを熱狂的に受け入れたのです。これは、「」と「」が融合した、「新しい形の産業資本主義」あるいは、「物理的占領の無いソフトな帝国主義」といえないでしょうか。

アラブの春」で大きな役割を果たしたと言われたTwitter、Facebook、Youtube。その結果何が起きたでしょうか。中東は大混乱し、シリア難民が欧州大陸に押し寄せ、英国もドイツもフランスも危機的な状況にあります。さらに、相次いで欧州で起きるイスラム過激派のテロが追い打ちをかけます。

そして、パナマ文書。英国のキャメロン首相や中国の習近平国家主席の親族の関与がインターネットを介して明るみに出ました。英国は大混乱し、「腐敗撲滅」を訴える、習近平自身の「腐敗」に、中国はかつてない情報統制を敷き、緊張感が高まっています。「タックスヘイブン」という英国シティ主導の行き過ぎた「匿名マネーの張瀾跋扈」への批判が高まっています。

21世紀に入って、アメリカの根幹を揺るがす大きな出来事が二つ起きました。一つは2001年9月11日の同時多発テロ事件、イスラム過激派によって資本主義の象徴であった世界貿易センタービルが破壊されました。二つ目は2016年1月16日に中国北京で発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)です。ブレトンウッズ体制を毀損しかねないとの米国の警告にもかかわらず、英国・ドイツ・フランスが参加しました。

Twitter、Facebook、Youtubeが背中を押したアラブの春の結果、中東は大混乱、英国・ドイツ・フランスに難民が溢れ、テロの脅威が高まっています。インターネットを介したパナマ文書で、中国と英国は多大な影響を受けてます。「情報帝国主義」は見えないので、「物理的帝国主義」よりも遥かにやっかいです。それが存在するかも含めてです。

そこで、モノのインターネット(IoT)とシェア経済です。拙稿「テスラが日本の自動車・電機メーカーを破壊する日」で述べたように、テスラ自動車は電気自動車をIoTの端末としてインターネットに組み込もうとしています。トランプ大統領候補は、「偉大なアメリカを取り戻せ」をスローガンに製造業の復興を唱えます。今、多くの日本人は「トランプは解っていない。日本のメーカーはアメリカに工場をもっていて雇用をもたらしている」と、彼の言動を鼻で笑います。「米国製造業の復活など無茶だ」とも。

でも、本当にそうでしょうか。テスラのみならず、GM(シボレー・ボルト)やフォードはものすごい勢いで電気自動車に傾注しています。日欧韓中の多くの自動車メーカーも追随していますが、そのような中で2つだけ、未だに電気自動車に後ろ向きな会社があります。トヨタとフォルクスワーゲンです。トヨタは、2010年に米国で急加速問題を端緒とする大規模なリコール問題を起こしています。一方、2015年9月18日、アメリカの環境保護庁は、フォルクスワーゲンが、アメリカの自動車排出ガス規制をクリアするため、ディーゼル自動車に不正なソフトウェアを搭載していたと発表しました。これが世界的問題となり同社の業績は今も低迷しています。何か因果関係があるのでしょうか。

1945年の第二次世界大戦からの東西冷戦下の50年間で、米国製造業は、日本とドイツに打ちのめされました。「もの」で負けた訳です。2000年から2015年までの15年間のグローバル経済で、米国は、新しい産業資本主義で世界を席巻しました。「インターネット」関連産業でです。2016年の今、早晩中国経済が崩壊し、グローバル経済は終わりを告げ、新しいパラダイムがやってくるでしょう。「もののインターネット」の時代です。「もの」と「インターネット」を融合させて、米国製造業を復活させる。もしかしたら米国はそういう青写真を描いているのかもしれません。

もしこうした陰謀論が本当なら、「裏切り者」の欧州と中国の地位は下がり、相対的に日本の地位は上がるでしょう。IoTやシェア経済はもともと日本の得意とするところです。ですが、「産業」と「政治・外交」が密接に結びつくソフトな帝国主義史観を持って、盟主米国との同盟関係を深化させることをよく認識しておくことが必要でしょう。

ひとつの懸念材料は、「アメリカが中国を(そして日本を)どうしようとしているか。」です。もし、アラブの春のようなことになれば、中国国内は大混乱に陥り、欧州でそうであったように、日本に難民が押し寄せるという最悪の事態も頭の片隅に置いておく必要があるでしょう。

Nick Sakai  ブログ ツイッター