カナダの山火事が油価を下支え

4月17日(日)の「ドーハ会議」では、OPECおよび非OPECの主要産油国が「生産据え置き(Production Freeze)」に合意するかもしれない、これは2014年末に価格の大幅下落が始まってから初めての産油国による「対応策」だとの期待に満ちていた。NYMEXのWTI価格も、前週末までには40ドル台を回復していた。

だが協議は、サウジ・モハマッド副皇太子(MBS)の電話指示により土壇場で決裂した。

WTI価格は、翌月曜日の4月18日(月)にこそ下押しされたが(終値39.78ドル)失望感はさほど広がらず、その後は40ドル台で、こじっかりした展開を見せている。

市場の見方は様々なのだろうが根底には、今回の「生産据え置き協議」は失敗したが、①MBS突出を巡りサウジ王室がどう動くのか不透明、②需給バランスはまだ供給過剰、③需要量が増えて、減少する供給量と均衡(リバランス)するのは、早くても年末か来年初め、④一方で、余剰生産能力はサウジとイラン以外にはほぼない(ロシアにはない)、という共通認識があるのだろう。

今朝、FTが興味深い記事を2件、伝えている。

Wildfire expand through Canada’s oil patch”(May 6th, 2016; 11:42pm)と、”Chevron caught in Niger Delta crossfire”(May 6th , 2016; 11:24pm)というニュースだ。

前者内容は次のとおりだ。

カナダの山火事が、アルバータ州の石油生産中心地であるFort McMurrayを含む1,000平方KMにまで拡大し、9万人以上がマイホームを捨て、避難せざるを得ない状態に追い込まれている。すでに1,600軒が山火事で消失し、被害がどこまで拡大するのか、まったく読めていない。アルバータ州のRachel Notley首相は、避難を呼びかける一方、避難した家族には大人一人に1,250加ドル、扶養家族には一人500加ドルを支給すると発表した。

合成原油の原料となるオイルサンドの生産施設等にどの程度の影響が出ているのか不明だが、あるアナリストによると、カナダのオイルサンドからの合成原油生産量の40%にあたる100万B/D程度に影響が出るかも知れない、としている。主要生産者であるシェル、サンコア、シンクルード社などは、従業員を生産施設から避難させ、生産活動を中止している、とのことだ。

一方、後者の記事は次のような内容だ。

モハマッド・ブハリ大統領に対する反対運動を強めているナイジェリア・ニジェールデルタ地域の軍閥新組織“Niger Delta Avengers”は、シェブロンの(エスクラボス油田群の一つである)オカン海上生産施設をも攻撃し、油漏れを起こさせ、約3万5千B/Dの生産を中止に追い込んだ。2009年の反乱行動以降、大手国際石油は「海上施設」の防衛体制を強化していたのだが、事態は悪化している。

3月に原油海底パイプライン等を攻撃されたシェルのフォルカドス油田からの生産は、その後も再開できておらず、ナイジェリアの原油生産は約170万B/Dに落ち込んだままだ。

軍閥はさらに、国営石油NNPCの原油およびガスパイプラインをも攻撃し、NNPCの2製油所への原油供給を妨げ、2000万人が暮らすラゴス地域への電力供給源である発電所へのガス供給を困難にさせている。

このように、供給量に支障が起こる事態がいくつか発生している。これらが「リバランスを早めるかもしれない」という懸念を市場にもたらしているのだろう。

だが一方で、50ドル以上になるとシェールオイルのDUC(掘削済みだが未仕上げ坑井)からの生産が増えてくるだろうから、上値も重い状況なのだろうな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年5月7日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。