トランプ、大統領就任で債務再交渉も視野

2016年05月08日 06:00

trump

バロンズ誌、今週のカバーは豪ドルです。カンガルーの跳躍力よろしく、商品相場が活況を迎えれば上昇気流に乗る期待値が高い通貨こそ、豪ドル。1月から7%上昇し、中国経済が安定すれば一段高も夢ではありません。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週はやっぱりこの人、ドナルド・トランプ候補に焦点を当てます。気になる抄訳は、以下の通り。


米国債、ドル、イエレン体制のFRB、トランプの思惑—Trump on the Debt, the Dollar, and Yellen’s Fed

初代の米財務長官であるアレクサンダー・ハミルトン氏と言えば、リン—マニュエル・ミランダ氏が書き下ろしたミュージカルの”ハミルトン”を思い出す人が多いだろう。今年のトニー賞で、16ノミネートを得たスマッシュ・ヒットに輝いた。ミュージカルにもなった同氏の功績から、ハミルトン氏自身の顔は10ドル札に印刷され続けている。

作者でプエルトリコ人のリン—マニュエル氏が主演した”ハミルトン”、ヒップ・ホップとの融合で記録的な大ヒット。
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(出所:People

ハミルトン氏の努力で世界で最も安全な資産の座を築いた米国債だが、事実上の共和党大統領・正式候補のトランプ氏は債務再交渉によって信用を削ごうとしている。CNBCに登場したトランプ氏は、自身の4度に及ぶ破産申請で自社の債務を削減した過去を持つためか、債務返済を額面通り行うべきか交渉すべきかとの質問に「私は、額面以下で返済できると知って金を借りて来た。しかも、非常に上手いやり方でね」と回答。さらに「経済が破綻すると分かれば、借金するだろう。取引できるものさ」とまで発言、米経済が破綻に追い込まれれば、債務再編にやぶさかなしとのスタンスを明確にした。

トランプ”次期大統領”が額面以下で返済するよう交渉するかは、あくまで観測に過ぎない。しかし、同時に米国が抱える19兆ドルもの米国債が金利上昇に直面するリスクに言及している点に注目したい。トランプ候補は「金利が2、3、4%ポイント上昇したらどうなるのだろう?国がなくなるよ」と語っていた。

以前から豪語するように、トランプ候補は低金利支持派である。米国債だけでなく「金利が上昇すればドルが急伸し、大いなる問題にぶつかる」と述べ、ドル高の弊害を意識していた。そうした文脈では、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長の政策には賛意を表し「非常に有能で、私の周囲も大いに評価している」とコメントする。しかし、自身が米大統領に就任するなら話は別で「イエレン氏は共和党員ではなく、任期切れを迎える時には交代が適切と考える」と付け加えるのを忘れなかった。

過去を振り返ると、米大統領の交代に伴いFRB議長が変わることはなかった。レーガン元大統領はカーター元大統領がFRB議長として選んだポール・ボルカー氏を再指名し、クリントン元大統領はレーガン元大統領とブッシュ元大統領が再指名したグリースパン元FRB議長を続投させ、オバマ米大統領もブッシュ前大統領に白羽の矢を当てたバーナンキ前FRB議長を受け入れた。むしろニクソン元大統領やカーター元大統領が断行したように、任期開始にあたってFRB議長を交代させたのは高インフレに苛まれた時だけだ。民主党の米大統領候補、ヒラリー・クリントン氏なら恐らく2018年に任期切れを迎えるイエレンFRB議長を再指名するだろう

イエレンFRB議長の金融政策を評価する上で、トランプ候補の最大の懸念事項はドル高である。中国が念頭にあるのは火を見るよりも明らかで「私は明らかにドル高が好きだが、ドル高が引き起こす大惨事を見てご覧よ。中国にいる私の友人は、みんなドルが上昇するのを眺め、ドル高を見て喜んでいる。だって、ドル高のおかげで恩恵に浴せるのだから」と語っていた。

こうした見解は間違いで、バロンズ誌で何度も指摘したようにドル高局面では人民元がドルにペッグされていただけに同じように上昇してきた。バンク・オブ・アメリカの元信用調査部門のヘッドだったデビッド・P・ゴールドマン氏が国際決済銀行(BIS)などのデータを受けて指摘するように、人民元は2008年から40%、20年前と比べて100%も急伸してきた。

自身でFRB議長を指名した米大統領の横には、ドルの価値を損ねた米財務長官がいた。ニクソン元米大統領時代に米財務長官だったジョン・コナリー氏は、金本位制とともにブレトン・ウッズ体制を突如終了させドル安が進んだ当時「我々のドルだが、あなた方の問題だ」と言い切った。カーター元米大統領の任期中に米財務長官を務めたマイケル・ブルーメンソール氏は、製造業支援を目指し声高にドル安キャンペーンを張った。両者の行動は悪名高き1970年代のスタグフレーションをもたらしただけでなく、後世の人間に「安易な願い事をすると痛い目に遭う(be careful what you wish for)」という警句を思い起こさせる。

仮にトランプ候補が発言通り経済衰退期に返済条件の交渉を開始すれば240年ぶり、すなわち独立戦争、2つの世界大戦、世界恐慌が発生する以前の時代以来となる。ハミルトン初代米財務長官が理解していたように、崩れない信用を培うことこそ”アメリカを偉大にさせる(make America great)”一助となっていたのだから。

ホワイトハウスの住人に誰がなろうが、現時点で米連邦公開市場委員会(FOMC)は少なくとも9月、あるいは12月まで金利を据え置くだろう。米4月雇用統計をみれば、明らかだ。FF先物によると、6月14〜15日開催のFOMCでの織り込み度は8%に過ぎない。9月20〜21日開催のFOMCでは35.1%、12月13〜14日開催のFOMCで漸く52.6%である。1−3月期決算で利ざや低下を確認する過程で、賃金や採用動向を通じ個人消費も圧迫されかねず、Fedが利上げに急ぐ公算は小さい。


もうひとつの名物コラム、ストリートワイズは財政支出拡大で株高になる銘柄を予想しています。抄訳は、以下の通り。


財政支出の拡大で恩恵を受ける銘柄—Stocks That Benefit From More Fiscal Spending.

JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)やブラックロックのラリー・フィンク会長、物言う投資家カール・アイカーン氏が指摘するように、誰もが財政支出の拡大を望んでいる。

強制歳出削減、赤字削減が達成できない場合に発動する自動的な予算カットの影響で米政府の財布の紐は固いままだ。とはいえ、米政府は既に財政支出を増加させている。過去7四半期において、政府支出はGDPに寄与してきた。2015年12月に通過した1.8兆ドルの予算案では裁量経費の上限が2016〜2017年度にわたって引き上げられるため、ニューディール政策ほどのインパクトはないにしても効果が期待できよう。2016年度(2015年10月〜16年9月)は歳出を660億ドル増加させ、向こう10年間での減税額は6500億ドルにのぼる。軍事建設費は14億ドル増加し、米国立衛生研究所の予算として20億ドル割り当てられた。設備投資を行う企業への優遇策も、継続する。

ストラタガス・リサーチ・パートナーズの試算では、歳出拡大と減税策で2016年のGDPを0.6%ポイント押し上げる見通しだ。注目セクターとしては、防衛関連が挙げられよう。また歳出拡大に連動する”Strategas Large Cap Austerity Index”の構成銘柄も、上昇余地がありそうだ。


トランプ候補の債務再交渉案はビジネスの選択肢としては有効でしょうが、国家としては暴挙に他なりません。自らギリシャやアルゼンチンが歩んだ道程を進むことを公言するとは・・ベテラン選挙参謀も納得ずくだったのでしょうか。はたまたライバル候補が撤退したおかげで正式指名にリーチを掛けた安心感から、思わずこぼれ出たものなのか。ひとまず、共和党主流派とこれでまた溝が広がったと言えそうです。

仮にトランプ候補の脳裏に2011年のケースが浮かんでいたのなら、策士ですね。そう、債務上限引き上げ交渉が決裂した2011年8月に格付け会社S&Pが米国からトリプルA格を奪った時です。AA+へ格下げされた当時、確かに米株は急落したダウは500ドル安で引けた半面、米国債は上昇(金利は低下)しその後もオペレーション・ツイストの導入を受けて値上がりを続けました。当時もデフォルトが懸念されるなかで、米国債の”安全神話”は崩壊しなかった。仮に債務再編でも、米国債は王者の貫禄を見せつけるのでしょうか。

(カバー写真:Gage Skidmore/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年5月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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