シェア経済で「ロスジェネ・ゆとり」の逆襲が始まる

2016年05月12日 06:00

拙稿「グローバル経済の終焉とシェア経済の行方」で申し上げたように、グローバリズムは早晩終焉し、IoTとシェア経済がこれからのトレンドとなり、日本は再起すると私は確信としています。その中心を担うのはこれまで不遇をかこっていた、1970-90年代に生まれたロスジェネ・ゆとり世代です。

下のグラフをご覧下さい、中国(上海労働者)と日本の非正規雇用の平均時給の時系列推移です。一目瞭然ですが、東西冷戦下の55年体制では、日本株式会社と日本的雇用慣行が上手く廻り、パートタイマーの時給は1985年からの10年間で50%も増加します。一方、ベルリンの壁の向こう側にいた中国の時給は低いまま押さえられていました。

中国と日本の平均時給の時系列推移

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出典:中国上海市・厚生労働省・連合

注:中国は上海市労働者の年収を筆者が時給換算、日本はパートターマーの時給

ところが日本のバブル経済崩壊とともに、グローバル経済が始まりました。世界大競争の下で、低賃金を武器に中国が世界の工場として大躍進を遂げます。

これに危機感を感じた日本株式会社の司令塔、日経連は1995年に新時代の『日本的経営』を発表し、終身雇用・年功序列・企業別組合を原理とする日本的雇用慣行の「モデルチェンジ」をはかります。

日経連「新時代の『日本的経営』」1995年5月
「長期蓄積能力活用型グループ」 「高度専門能力活用型グループ」 「雇用柔軟型グループ」
雇用
形態
期間の定めのない
雇用契約
有期雇用契約 有期雇用契約
対象 管理職・総合職・
技能部門の基幹職
専門部門
(企画、営業、研究開発等)
一般職
技能部門
販売部門
賃金 月給制か年俸制
職能給
昇給制度
年俸制
業績給
昇給無し
時間給制
職務給
昇給無し
賞与 定率+業績スライド 成果配分 定率
退職金
年金
ポイント制 なし なし
昇進
昇格
役職昇進
職能資格昇進
業績評価 上位職務への転換
福祉
施策
生涯総合施策 生活援護施策 生活援護施策

それまでのような「全員正社員」という家族主義的経営を改め、本当に必要な優秀人材のみを「長期蓄積能力活用型グループ」として囲い込み、それ以外を会社の外の労働市場に放り出しました。

この結果、パートや派遣といった非正規労働者が大量に生まれ、彼らは乱暴にも中国の労働者との時給を為替レートの換算で比較され、「中国人労働者の時給は安い。君たちは彼らに比べて労働に見合った対価を生んでいない」という理屈で賃金が頭打ちになります。

年金生活への駆け込みに成功した団塊世代と何とか会社にしがみつくことができたバブル世代との間に深刻な収入格差が発生します。この格差は「社員」対「非正規」という形であぶり出されていきます。

生活防衛のために、ロスジェネ世代は低収入に見合った、低消費戦略をとり、持久戦が始まります。車や家電、家といった所有をあきらめ、恋愛・結婚もせず、子供も生まない。すると、企業は海外輸出で高業績を上げるのだけれども、国内での消費は伸びないという「合成の誤謬」に陥ります。栄えるのは、低価格で売る世界ハンバーガーチェーンや、中国で日本式の生産をして格安に規格品を売るアパレルぐらいです。

その後、「ゆとり世代」が登場します。彼らは、目の前でバブルの階段が崩れ去って挫折感を味わったロスジェネ世代と異なり、最初から「右肩上がりの成長」の存在すら知りません。彼らもまた、所有欲はなく、もはや亡霊と化した「日本的雇用慣行のしきたり」すら関知しません。

もはや、「ロスジェネ・ゆとり」対「団塊・バブル」の生活格差が固定化されたと誰しもが思った頃、中国経済の変調とともにグローバル経済が音を立てて崩壊し始めます。それが2016年です。

アメリカではトランプとサンダースがアンシャンレジームをぶち壊しにかかります。低所得層の逆襲が始まりました。何せ、格差の拡大で低所得層が圧倒的投票数を持っているのですから、所有とパイの拡大を基本原理とする資本主義経済が崩壊しても失うものが少ない有権者は、破壊者を大統領に祭り上げます。日本では、政治・統治構造の違いから、それほどドラスティックなことは起こりませんが、例えば世界水準との比較にこだわる必要がなくなった、最低賃金の大幅な上昇といった形で、ボディーブローのようにアメリカ発の風が影響を与えていくでしょう。

一方で、中国は、典型的な「中進国の罠」にひっかかり、急激に労働者の賃金水準が伸びて、あと数年で日本のパートタイマーを抜き去る勢いだったのに、急ブレーキがかかります。経済の変調が、政治・社会の不安定を引き起こします。

一方、先進国に傾斜的に恩恵を与える、モノのインターネット革命が起き、こうした所有よりは共有を良しとする層のライフスタイルに世界が寄り添ってきます。

過去の中央集権的会社社会主義により、過剰に労働配分率を低く押さえられていた、ロスジェネ・ゆとり世代は、労働生産性向上の果実を誰よりも多く享受することになるでしょう。

実は今、人材派遣労働業界には今IoT化によって、そのビジネスモデルに激震が走っていいます。AirB&Bやウーバーといったアプリが、情報の非対称性によって成り立っていた前近代的な人件費搾取構造はもはや成り立たなくなります。ある面において、IoTとシェア経済への移行は「市民革命」の様相を呈しつつあるのです。

Nick Sakai  ブログ ツイッター

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