租税回避地の「パナマ」に金融制裁を

2016年05月11日 16:00

合法化された非合法の世界

「パナマ文書」で明らかにされたマネーの闇の世界に、あ然、茫然とするばかりです。タイトルにつけた「パナマ」はパナマ一国だけの話ではなく、カリブ海諸島、香港、モナコなどのタックスヘイブン(租税回避地)の総称です。また、違法ではない部分は当然、対象外であり、あくまで非合法の部分に対する制裁を強化しようという意味です。

「パナマ文書」については、おびただしい数の論評、解説がなされています。まるで「目の見えない人たちがゾウをなで、ゾウとは何かを語り合うインドの寓話」に似ております。「太い柱だ(足)」、「いや長い綱だ(尻尾)」、「大きな扇だ(耳)」、「いやパイプだ(牙)」と言い合うのです。部分としてはそれぞれが正しく、当たっているでしょう。

総論としての私の感想を語れば、インタビューに応じた日本人、日本企業の利用実態は、重箱の隅を突く程度の話でしょう。なんといってもすさまじいのは、中国、ロシアなど共産圏の独裁国家のトップらによる所得の不正取得、タックスヘイブンへの資金逃避、マネー市場での運用による巨大な増殖が想像され、絶句します。

国家は独裁体制のために存在する

ひどさでいえば、中国が筆頭でしょうか。租税回避のためのペーパー会社は中国が突出して多く、2.5万人・法人といいます。国内では報道もさせないそうですから、独裁者や独裁体制下における富の収奪に国民は怒りようもありません。ロシアを含め、国家、政府は国民のために存在するのではなく、独裁者、指導層が自らを富ますために存在しているのでしょう。

民主主義国家にいるわれわれにとっては何が問題かを問えば、マネー市場が軸になっている地球経済の仕組みには、一般市民に対するのとは異なったルール、世界の存在が明らかになったことです。節税、資産増殖、資産隠しの点で、富裕層、多国籍企業は優遇されており、社会的格差の拡大が生み出されているのです。

日米欧などの中央銀行がデフレ脱却、景気浮揚のためにといいつつ、この10年、20年、超金融緩和を続け、マネー市場を肥大化させています。マネーは実体経済の好転に大して役立たず、資産運用できる余裕のある階層に流れ、タックスヘイブンが彼らのために貢献する装置になっているようですね。

超金融緩和の長期化が加担

タックスヘイブンの世界に対する取り締まりを強化する前に、日米欧の政府・中央銀行自らが、マネーの自己増殖の旗を振っている現状のおかしさに真っ先に気づかねばなりません。

麻生財務相は「あらゆる機会を通じて、情報収集を図る。問題のある取引があれば、税務調査を行う」と、語りました。日本で開かれるG7サミット(首脳会議)でも、課税逃れを防ぐ国際的な監視体制作りに取り組むようです。

課税逃れを防ぐといっても、実効性がどの程度あるのかですね。国内に拠点のある個人、法人がどのようにタックスヘイブンを使っているのか、正確な情報、データをどう集めるかがポイントになります。相手が相手だけに、進んで顧客の機密情報を当局に提示するとは思えません。

米国の賞罰的制裁の効き目

参考になるのは、米国の「外国口座税務コンプライアンス法」(2010年)ですか。「外国の金融機関に米国人の口座情報の提供を求め、応じなければ米国債などの配当に懲罰的税率を科す」(日経新聞、5月4日)のだそうです。ある種の金融制裁です。そのせいもあったのでしょうか、「パナマ文書」で公表された米国の関係者・法人は7300件と、中国の5分の1程度でした。監視を強化するなら、懲罰的な仕組みを考えることです。

中国、ロシアはどうするのか。そもそも問題は、所得、資産の不正取得から始まりますので、まず当事国の政府が国内での取り締まりを強化するしかありません。中ロでは、政府、党にその気はなく、トップおよび周辺が率先して課税逃れに励んでいるようですね。まず国民自身が政府、指導者に怒りをぶつけていくしかありません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年5月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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