世にも奇妙な相場展開、Fedの加担もあり継続へ

2016年05月22日 06:00

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バロンズ誌、今週のカバーはブラックストーン副会長で、年ごとの「ビックリ予想10大予想」でお馴染みのバイロン・ウィーン氏にスポットライトを当てます。83歳にして混迷する相場に道筋を与え、世界中の金融当局者をはじめ経営幹部、投資家など縦横無尽のネットワークを駆使して交流を図り、まさに金融市場のヨーダ的な存在感を放つ。テニスでの負傷からカムバックしたウィーン氏は、早速中国へ出張し毎月のエッセーに「中国は鈍化している、それが何だ?(China‘s slowing, So What?)」を送付した。中国経済は当局の目標値7%ではなく、同氏の試算では「恐らく4.5%」で推移するという。

しかし、ウィーン氏はGDPの伸び率が問題ではないと説く。なぜなら「それでも中国は1000万人以上の雇用を創出しているんだ。米国や日本、欧州が同じようなペースで拡大すれば、大喜びするに違いない」。中国と言えばウィーン氏が最近食事を共にした冷戦時代の米中和解の立役者、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官いわく習近平主席による汚職撲滅の真の意図は「賄賂によって生じる富の創造」であり、「汚職による容易な受注の軽減」ではないそうです。一方、ウィーン氏は安倍首相のアベノミクスに対して辛口で「投資家との会話では、多くが力強い成長とそれに伴う富の創造という機会への望みを失った」と振り返っていました。同氏の華麗なるウォールストリートでの生涯を追う記事の詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週はボラティリティが激しくなりつつある米株相場を取り上げます。抄訳は、以下の通り。

株式市場、トワイライト・ゾーンで停滞—Stocks Are Stuck in the Twilight Zone.

2015年5月21日、S&P500が過去最高値(2130.82)で取引を終えた記念日を忘れている投資家は多いのではないか。前週末20日の終値を3.7%上回る水準である。ダウは2015年5月19日に18312.39ドル、ナスダックは同年7月20日に5218.86にて最高値をつけ、それぞれ前週末の20日引け値を4.4%、9%を上回るレベルだ。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)のマイケル・ハートネット主席投資ストラテジストいわく、今年の相場展開はトワイライト・ゾーンそのものだという。年初来で世界の株式相場は8.2%下落し、商品相場は22.3%下落し、債券相場は5.3%上昇した。新たな次元に突入するより、マーケットはリスクからの逃避したとも言える。欧州の銀行株はリーマン・ブラザーズが破綻した2008年やギリシャ債務問題の炎が燃え盛った2012年以来の水準へ沈んだ。日本の銀行株も30%下落。長期債は米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げにも関わらず低水準を続け、米長期債は10%高、本邦長期債も18%高、独長期債も9%高を遂げている。

ルイーズ・ヤマダ・テクニカル・リサーチ・アドバイザーズのルイーズ・ヤマダ氏は、今年のダウは概ね16000〜18000ドルでレンジを形成(2月11日の安値を除く)していると説く。その上で、仮にダウが20日の終値17500.94ドルから下落し17100ドルをブレークすれば、16000ドルを目指すと予想。S&P500の場合は、2052.32から下振れすれば1800へ進む見通しだ。原油相場について、ヤマダ氏は2014年からの下降トレンドをブレークしたと判断し「30〜50ドルのレンジから30〜60ドルへレンジ上限を切り上げつつある」と指摘する。ただし、いったんは20日の終値48.16ドルから40ドルへの下落を見込み、株式相場との相関関係を維持すると公算だ。

米連邦公開市場委員会(FOMC)と米株の関係も、忘れてはならない。BAMLによると、2009年3月に突入したブル相場をみるとバランスシートとS&P500は比例してきた。しかし2014年10月に量的緩和第3弾(QE3)終了した後、米株相場はほぼ横ばいで推移。特に2015年12月に利上げを開始してから、年明けに世界の株式相場は急落しFOMCは年4回の利上げ示唆を2回に変更せざるを得なくなった。

しかし4月26〜27日開催のFOMC議事録では、6月14〜15日開催のFOMCで利上げを行う曖昧なメッセージを送った。おかげでナスダックこそ4週ぶりに反発したものの、ダウは2014年以来となる4週続落に。米2−10年債利回りスプレッドは縮小しており、MKMパートナーズのマイケル・ダーダ主席エコノミスト兼マーケット・ストラテジストは「経済鈍化のシグナルを点灯させた」と懸念を寄せる。

ダウの戻りは、一目均衡表・雲の上限でストップ。

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(出所:Stockcharts)

リンゼー・グループのピーター・ブックバール主席マーケット・アナリストはFedが流動性中毒に陥った”日本の罠”から脱出しようとする試みを評価しつつ、利上げのタイミングは「理想に程遠い」と話す。米成長率が2%以下で、企業は減収・減益を計上し、製造業は横ばいで、債券と株式がそろってオーバーバリューという「有毒な地合い」にあるためだ。

BAMLは、米株がトワイライト・ゾーンに入った理由にFedによるバランスシート拡大終了を挙げる。さらに割高なウォールストリートとメインストリートのデフレ圧力では、利上げへの耐性は低いだろう。Fedのシナリオは、トワイライト・ゾーンの脚本家で知られるロッド・サーリングにとっても恐ろしいことに違いない。

1980年代、ニューヨーク・タイムズ紙のウィリアム・サファイア氏は「Yamani or  ya life」との洒落を放った。石油輸出国機構(OPEC)やサウジアラビアが国際石油市場を支配していた時代にサウジアラビアの石油鉱物資源相だったアハマド・ザキ・ヤマニ氏を指し、当時サウジをはじめ石油収入で得た利益を米国債に投資するなどベンダー・ファイナンスを行っていたものだ。

そのサウジアラビアは、米国が2001年に発生した同時多発テロ事件に関与したとしてサウジアラビア政府を起訴する法案を米議会が承認すれば、同国が保有する7500億ドル相当の米国債を売却すると圧力を加えている。しかしながら、その脅しは通用しないだろう。実際に、サウジが保有している米国債は7500億ドルに遠く及ばない(米財務省が41年ぶりに公表したところ、1168億ドル)。

そもそも、サウジは海外の金融機関(JPモルガン、ゴールドマン・サックス、三菱UFJ銀行、中国工商銀行など)から25年ぶりに100億ドル相当の融資を受け入れを発表したばかりだ。また、英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は外貨獲得を狙いサウジが年内に海外向けに大規模な国債発行を検討中と報道(2015年に07年以来の国債発行に踏み切ったものの、引き受け手が政府投資会社から商業銀行へ拡大した程度)。ブルームバーグは、サウジが政府請負業者に借用書(IOU、満期まで保有あるいは銀行に売却が可能)を発行する見通しと伝えた。イエメンへの軍事介入や原油安による財政悪化が原因で、格付け会社ムーディーズは”Aa3”から”A1″へ引き下げた。サウジの米国債売却は、脅しというよりも資金調達の一貫とみるべきだろう。

もうひとつの名物コラム、ストリートワイズは6月利上げの示唆を与えた4月FOMC議事録がテーマです。抄訳は以下の通り。

Fedは、株安の引き金を引くのか?—Will the Federal Reserve Trigger a Stock Selloff?

アインシュタインは、こんなジョークで笑わせたとされている。「狂気は、同じことを繰り返し続け異なる結果を導き出すことへの定義だ」。それなら、Fedは正真正銘の精神病に罹ろうとしているようだ。

5ヵ月前、Fedは利上げに踏み切り商品先物市場を奈落の底に突き落とした挙げ句、信用市場を混乱に陥れた。S&P500は直ちに反応し9.2%下落、投資家は利上げが景気後退という副産物をもたらすと懸念したものだ。セントルイス地区連銀のブラード総裁や米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長やが不安払拭に動いたと同時に、利上げが間違いだったように見えた。

ところが、4月FOMC議事録を読む限りFedは再び同じ間違いを犯そうとしている。そもそも、利上げには良性と悪性があり、バーナンキ前FRB議長が2013年12月に資産買入縮小を決定した当時は短期債より長期債が売られスティープニングに傾いた。しかし、4月FOMC議事録公表後は逆にフラットニングしており、BAMLのシャイアム・ラジャン氏に言わせれば市場が6月利上げを真面目に受け止めていないというより「政策失敗のサインと読み取った」という。フィエアラ・キャピタルのジョナサン・ルイス最高投資責任者は、もっと痛烈に”jaw-dropping(アゴを落とすような衝撃)”という言葉に掛けて”jaw-boning(アゴを骨抜きにする衝撃)”と批判。さらに「選択肢のない時に、あるという幻想を創った」と鋭く皮肉った。

——Fedの後出しジャンケンでの6月利上げ示唆は、筆者にとっても衝撃的でした。マーケットが年1回の利上げしか織り込まない状況を危惧したのでしょうか。あるいは議事録に明記したように、泡を立てつつある商業不動産に警告を発したかったのか。個人的には、4月FOMC議事録の冒頭にあった「金融政策と金融安定」に注目。商業不動産バブルを理由に利上げを継続するには、説得力に乏しいんですよね。非常に局地的であり、米経済全般に波及していません。

例えば新築住宅件数で言えば50万件程度で、サブプライム問題を引き起こした住宅バブル期の100万件、あるいは統計が開始した1963年から2000年までの平均値63.4万件にも程遠い状況です。長期経済停滞(secular stagnation)の時代を迎えつつ2%成長がやっとの状態で、個人消費も1990年から2007年までの平均値3.3%のところ、足元は1.9%でした。民間投資を振り返っても、テーパリングを決断した2013年12月以前は第1四半期に7.1%、Q2で5.2%、Q3で13.7%と好調だったものです。2015年12月に利上げ前も民間投資はQ1に8.6%増、Q2に5.0%増を示し、Q3になって漸く0.7%のマイナスにコケた程度でした。

振り返れば2013年に資産買入縮小を決定する以前にテーパー・タントラムが襲い、2015年8月には利上げ警戒に人民元の切り下げも重なり金融市場に波乱が訪れました。今年はBREXITを見据えた英国の国民投票、米大統領選、テロ警戒がくすぶります。Fedにとっては3度目の正直となるのか、あるいは2度あることは3度あるを地で行く展開となるのか。弱気寄りな筆者は、まだ6月利上げ論の流れには乗り切れていません。

(カバー写真:Nandakumar Subramaniam/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年5月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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