イタリア、人権闘争の獅子マルコ・パネッラ逝く

2016年05月25日 01:55

イタリア急進党(Partito Radicale)の創設者マルコ・パネッラ氏が86歳で亡くなった。

パネッラ氏は旧弊なイタリア社会の変革に情熱を燃やしつづけた欧州では知る人ぞ知る政治家だった。

同氏は70年代~90年代にはイタリア国会議員。また 1979年から2009年までの間は4度に渡って欧州議会議員も務めた。

彼の最大の功績は、カトリック教のドグマに強く縛られていたイタリアの中絶禁止法と離婚禁止法に噛み付いて、やがてこれを破棄させたことである。

パネッラ氏の政治基盤は自らも創設者の一人だった前述のイタリア急進党。しかし弱小政党である同党は、パネッラ氏個人の人気に支えられて存続してきたものであり『急進党=マルコ・パネッラ』と言い切ってもかまわないほどに氏の存在感は強烈だった。

また党名には「急進(Radical)」つまり極左にも近い響きがあり、パネッラ氏自身も急進主義者と規定される場合が多いが、2者の実際の在り方は左右の政治枠には入りきらないのが特徴だった。

右翼や保守とは相容れず、左派や共産主義者ともよくぶつかった。あえて他の欧州諸国の政治枠組みに入れて考えるならば、例えば「リベラルなマルコ・パネッラが率いる『進歩党』」とでも呼ぶのが適切かもしれない。

最近まで中絶や離婚を禁止してきたイタリアでは、それに挑む者は確かに急進主義者と呼べるほどのインパクトがあった。が、他の欧州諸国の基準で言えば、せいぜいリベラル、進歩党あたりに落ち着くと思う。

パネッラ氏を例えば日本共産党や旧社会党の幹部と並べて評価しようとする意見もあるようだが、それはイタリアの社会の深部を解しない見方である。彼を日本の政治家と比べるのは、こじつけのそしりを免れないのではないか。

今のところ日本には、パネッラ氏に匹敵するようなコミュニケーション能力に長けた革新派の政治家はいない。それどころか保守層を含めても、現在この時の日本の政治家の中には見当たらない、というべきである。

歯に衣きせぬ言動で知られたパネッラ氏は、同時に庶民派としても鳴らし、左右を問わない政治家や文化・知識人、そしてなによりも政治への不信感を強く抱くイタリアの民衆に愛された。そこでのキーワードはただ一つ『ぶれない』だった。

彼は自らの政治的主張を実現させるためには、右とも左とも平然として手を結んだ。その典型例が保守派のベルルスコーニ元首相との提携である。返す刀で彼は、ベルルコーニ氏の天敵である左派のプローディ元首相とも気脈を通じた。

そうした動きは当然、「ひより見」「八方美人」などと厳しく糾弾された。しかし、急進主義者が権力を握ることはない、と冷徹に見抜いていた彼は、自身の主義主張を認知させるには大勢と組むのが近道と考えた。

故に彼は、その時々で主流の政治勢力と妥協し連携することを厭わなかった。主勢力に同化することはないが、彼らの影響力は最大限に利用した。小規模政党が乱立して政治危機が日常化しているイタリアでは彼のやり方は効果的だった。

パネッラ氏は自らのそうした打算を決して隠そうとはしなかった。彼の政治手法は生涯一貫していた。そこでのキーワードもやはり『ぶれない』だったのである。人々はその潔(いさぎよ)さを愛し尊敬した。

彼は一度世界を驚かせた。1987年、ハードコア・AV女優の「チチョリーナ」を自らの党に引き入れて国会議員に当選させたのある。挑発し、驚かせ、時にはアナーキーに見える形で民衆をあおるのも、急進主義者・マルコ・パネッラの真骨頂だった。

Panella+ciciolina300pic           AV女優チチョリーナとマルコ・パネッラ氏

そこで主張されたのは、中絶と離婚の権利であり、学校での性教育の推進であり、さらに反原発、NATO(北大西洋条約機構)からの脱退など、パネッラ氏の従来の主張に満ちていた。チチョリーナはそこで党首のパネッラ氏に次ぐ票数を獲得した。

彼は生涯結婚しなかったが、1974年以来ひとりの女性と同棲をつづけた。パネッラ氏はパートナーとの関係は互いを縛らない自由なつながり であり、氏自身はバイセクシュアルで相手の女性もそれを承知している、と明らかにしていた。彼はいま流行りのLGBT論でも既に最先端を走っていたことになる。

晩年のパネッラ氏は、政治主張をハンガーストライキと共に行うことが多くなっていて、2011年には3ヶ月のハンガーストライキを強行。彼の健康悪化の原因のひとつになったとされる。が、彼は肺癌と肝臓癌も患っていて、それが直接の死因になった。合掌。

 

仲宗根雅則
テレビ屋
イタリア在住

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