分散型ネットワークと中央集権 --- 小宮 自由

ブロックチェーンの本質は、分散型ネットワークによる中央集権の否定である。財産権を中央集権なしに機能させることは可能だろうか。その答えを出す前に、まずは以下の問いを1分程考えてみてほしい。

問1
著作権をブロックチェーンで管理することを考える。ブロックチェーンを用いたシステムBにおいて、著作物Cの著作権を甲から乙に譲渡するトランザクションTが行われたとする。Tが正当な取引であることを、Bのみを用いて証明できるか。

Tはなりすましかもしれないし、詐欺の可能性もある。なりすましを防ぐ為には、電子認証を用いる等の手がある。詐欺を防ぐ為には、第三者がTの正当性を保証する仕組みを実装すればいい。そうなるとこれは実現可能なように思える。しかし答えを出す前に、以下の問いも考えてみよう。

問2
甲が新規に創作した著作物Nをブロックチェーンを用いたシステムBに登録Rをした。当該登録の正当性を、Bのみを用いて証明できるか。

これは不可能である。BにとってNは新規の存在であり、その帰属を示す情報がないからだ。それを判断する為には、甲が他に創作した作品との類似性や、甲の知人等からの聞き取りによって、人の目で近似的な判断をするしかない。問2ができることが問1の前提になっているので、問2ができない以上問1もできないという回答となる。

ビットコインがそれを制御するシステム自体において正当性を証明できるからと言って、いかなる財産権でもそれができると錯覚してはいけない。ビットコインはシステム自体が財産権を生み出せるという、例外的な場合だからだ。

ではどうやってブロックチェーンで著作権を管理するか。ここで国家の出番となる。上記のTやRについて異議が唱えられた場合、裁判でその正当性を判定すればいい。裁判沙汰を避けたいのであれば、TやRに証拠として身分証や登記等の付帯情報をつけて証明力を高めればよく、これらは行政が発行したものである。このように国家権力によるお墨付きを得られれば、Bは有効に機能する。Bの開発者の役目は、正当性をそれ自体で完全に証明することでなく、高い確率で正当であることを保証し、なりすましや詐欺に対するインセンティブを極小化することである。これらは既存の技術で対処可能だ。

現金を除いた財産権に関しても、上記の著作権と同様に、実際に機能する為には国家の保証が必要であり、それは財産権が国家の暴力を背景として安定していることに対応する。そして実は現金も最終的には国家の保証を必要とする。ビットコイン等の仮想通貨は、国際金融のトリレンマのうち、「為替相場の安定」を満たせない。その為、ドル等の発行数が多い現存通貨に比べて価格が不安定となりがちで、日常的な取引に使うのは難しい。これを解決するには、国家が仮想通貨を発行するしかなく、未来において遠からずそうなると私は予想している。以上のことから、現金を含めた全ての財産権において、中央集権的主体である国家の保証があって初めて現実的に機能することがわかる。ブロックチェーンがあってもそれは変わらないということだ。

ブロックチェーン自体は既存の枯れた技術の組み合わせであり、技術的新規性は薄い。そしてその社会への影響に関しても中央集権を締め出す程の「革命的」なものではない。人工知能と同じく、ブロックチェーンも実際の可能性以上に盛られて語られることが多い。今の人工知能が究極の疑問の答えを教えてくれる見込みがないのと同様、ブロックチェーンが全ての財産権のあり方を覆す見込みもない。ブロックチェーンが有用な技術ではあるのは間違いないので、これからは何が可能で何が不可能なのかを冷静に考えていかなければならない。

株式会社アットメディア 研究員
小宮 自由(こみや・じゆう)
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