いま再び「ヘリコプターマネー」

ヘリコプターマネー、つまり札束を空からばら撒け、という言葉は経済学者のミルトン フリードマン教授が1969年にその論文の中で提案した言葉であります。その後、FRBの議長だったベン バーナンキ氏がかつて日本にそれをしたらどうか、といったことでむしろバーナンキ氏の言葉として有名になってしまいました。

このヘリコプターマネーの真の意味とは国民に広く薄くマネーが行きわたるという意味なのですが、世界の中央銀行の金融緩和は似て非なるものであります。

金融緩和で金利が低くなると法人と個人はお金を借りやすくなるメリットがあります。ところが問題はどちらもその借り入れをするためにはハードルがあり、一定の信用がある人のみ、その恩恵を受けられることになっています。例えば個人ならば正社員として一定期間の勤務経験があり、その会社に今後も在籍し、給与も安定しているならば住宅ローンを引き出すことが出来ますが、非正規の方や個人事業主となると5年、10年後の安定感を提示する際になかなか苦労するはずです。

法人の場合にも事業資金を貸してくれるのは長いお付き合いがある、上場している、担保価値を十分に確保できるなどであって、起業したから安い金利の金を貸せ、と言っても銀行はそっぽを向きます。

つまり、世界各国で金融緩和をしているものの実際の貸し手の窓口である銀行が口を締めている限り、ヘリコプターマネーにはならないのです。

ということは安い金利のマネーは何処に行ったか、といえば信用能力が高い大企業、儲かっている企業、そして不動産担保が取れる不動産デベロッパーなどに必然的に向かいやすくなります。さて、ここからが問題です。

北米に於いてお金の出し手は銀行だけではありません。投資家が市場に放つマネーも大きなポーションを持っています。富裕層の個人投資家は銀行、証券などで運用する以外に不動産投資をしたり、更には大きく化けるかもしれない事業投資(エンジェル投資)を行います。実はその投資に対する期待リターンが下がってきてしまうという現象が起きつつあります。

私の会社の事業に不動産のインキュベーション事業資金があります。当地では通常、不動産事業会社が土地取得から設計、許認可取得、販売準備、更に着手前販売により一定の販売が達成されるまで事業資金を銀行から調達するのは困難です。当社はその間約2年程度のつなぎ資金を提供するシンジケーション団のメンバーで不動産事業を後ろから支えています。

当地の様に不動産事業が多い地域ですとこのタイプの資金需要は非常に多く、且つ、かなり高い金利が設定されます。2年ぐらい前までは実は二桁金利が当たり前でした。ところが、徐々にその金利が下がり、先週締結した物件はわずか6.5%まで下がっています。リスクマネーなのにここまで金利が下がったかと思うと結局、マネーが溢れすぎて資金をパーク(運用)するところが無くなり、投資家がかなりアグレッシブに資金供与をしているということになります。

国債なども利益が出にくくなったビジネスですが、不動産融資事業も利益が出にくくなったのです。これは世の中に資金が溢れてしまい、少しでも金利が高いところで運用できるよう皆が競う為に全体のハードルがどんどん下がってきているのです。

では不動産事業者は安い資金調達が出来るから儲かってしょうがないだろう、と思いきや、需給がひっ迫する建設費が嵩み、工期が延び、売値が特別高くなるわけでもないため思ったより羽振りはよくないのです。これではいったい誰が儲かっているのかさっぱりわからないのです。

ヘリコプターで国民均一にばら撒くのではなく、中央銀行を通じて一定の仕組みの中で金融緩和の効果を期待するのは格差を助長するのみならず、効果が得られない可能性があるように見えます。

全員に行き渡るのは例えば政府紙幣のようなもので国民に「好きに使えや!」とばら撒くことでしょう。ここで気をつけなくてはいけないのは全員均等に分けることでしょうか。所得幾ら以上の人にはあげないなどというけち臭いことをしてはいけません。お金の手離れは案外お金持ちの方が早く、且つ、1万円の商品券ならば5万円ぐらい使い、「2割引きで買えた」ぐらいの波及効果をもたらすのです。

今日のポイントはヘリコプターマネーということばがちらちら聞こえてくるのですが一般庶民が今、体験しているのはヘリコプターどころか探してもどこにも見つからない金融緩和のマネーです。一方、消費税は一般大衆から等しく吸収するわけですから日本で消費税がなぜ不人気だということを役人もそろそろ気が付かないといけないということでしょう。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 5月31日付より