リーマン・ショック並みのクライシスへの備え

安倍首相は28日夜、麻生副総理兼財務相、自民党の谷垣幹事長らと会談し、来年4月の消費税率の10%への引き上げについて、2019年10月に2年半、再延期する考えを伝えたそうである。

これに対して麻生財務相は、29日に富山市で開かれ谷垣幹事長も同席した会合で、仮に引き上げを再延期する場合には、衆議院の解散・総選挙を行う必要があるのではないかという考えを示した。

リーマン・ショック並みのクライシスに備えて、どうやら安倍首相は消費増税延期で無理矢理押し通す構えのようである。クライシスの備えで延期するとなれば、たぶん永遠に消費税の引き上げなどは難しくなりそうだ。ただし、この消費増税延期について市場は特に動揺を示すことは考えづらい。債券市場においても安倍首相が在任中に二度の消費増税などはやるわけはないとの突き放した見方はすでに以前から出ており、やはりな、といった結果となった。

ただし、安倍首相はリーマン・ショック並みのクライシスに備えての財政政策も打つつもりのようである。その中身よりも規模とそれによる国債増発の有無などが注目されよう。財政規律は維持するということが口先だけのものとして認識されるようであれば、国債市場に動揺が起きる懸念は皆無ではない。

そして、米国ではFRBが6月か7月のFOMCでの利上げを視野に入れていることがイエレン議長の発言で明確となった。

イエレン議長は27日、ハーバード大学でのイベントで、「これまでにも話したことだが、金融当局が時間をかけて緩やか、かつ慎重に政策金利を引き上げていくのは適切だ」とし、「恐らくは、今後数か月のうちにそうした行動が適切になるだろう」と述べた(ブルームバーグ)。

今後数か月となれば6月14、15日もしくは7月26、27日のFOMCのどちらかということになろう。可能性とすれば議長会見がある6月の可能性が極めて高いとみている。

ここにきて地区連銀総裁からは利上げに向けてかなり前向きの発言が相次いだことで、イエレン議長は多少なり慎重な姿勢を示して、調整を図る可能性もあるかとみていた。ところがすでに市場は6月の利上げも織り込んでいながらも、米株も米債もかなり冷静な動きとなっていた、株式市場はむしろ利上げが可能なほど米国経済がしっかりしているとの認識を強めた格好となり、イエレン議長もその見方を強めさせたと思われる。

リーマン・ショック並みのクライシスに備えて政府は消費増税を先送りし、デフレ脱却のためと称して中央銀行はマイナス金利まで導入した我が国に対し、リーマン・ショック並みのクライシスはすでに去り、金融政策についても正常化に戻しつつある中央銀行を有する米国との違いは明白である。いったいどちらが見方や手段を間違えているのかは言うまでもなかろう。

米国市場はすでに利上げに耐えうる状態となっており、健全な形で株価も金利も上昇してくる可能性が高いと思われる。これに対して財政規律の緩みも意識される上で財政ファイナンスの様相を強めている我が国にとっては、別の意味でリーマン・ショック並みのクライシスに備える必要も出てきているのではなかろうか。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年5月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。