デジタル・ファーストの実現は政治の責任

2016年06月06日 11:40

最高裁判所は、6月3日に、「花押」を記した遺言書は無効と判断したそうだ。記事によれば、「押印の代わりに花押を使用する慣行や法意識はない」というのが、最高裁判所の見解だという。

民法には遺言に関する規定がある。960条は「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」と定め、方法として、自筆証書、公正証書又は秘密証書の三つが指定されている。その上で、968条は、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」としている。

法的に押印が求められているのに花押を使用したので、遺言書は無効と判断したわけだ。法を適用して争訟を裁定するのが司法機関の役割だから、これは民法に沿った判断である。しかし、これは、わが国に根強く残る印鑑至上主義を反映する判断でもある。3Dプリンタの発展で複製が容易になり脆弱性が高まっているとして、印鑑に頼る行政の見直しを千葉市長が訴えたのは、すでに3年前である。しかし、その後、印鑑至上主義の見直しは国会で議論されることはなかった。

民法は自筆証書の全文を自書することを求めているから、パソコンで作成した文書に署名・捺印しても無効である。『対面・書面原則を転換し、原則ITをルール化する』ことは昨年の政府の成長戦略に記述済みで、あとは一刻も早く実現する段階として、デジタル・ファーストの徹底を新経済連盟は提言している。自筆の文書しか認めないという遺言制度は、デジタル・ファーストからはるかに遅れている。

情報通信政策フォーラム(ICPF)では個人情報の保護と活用に関するセミナーシリーズを実施している。その第一回で、榎並利博氏はマイナンバーの適用範囲を医療、戸籍、不動産に拡張するように主張した。これもデジタル・ファーストを徹底するための提言なのだが、一部がやっと動き出しただけである。

司法機関が拠り所とする法を改正するのは、立法府の役割である。対面・書面原則、印鑑至上主義からの脱却には、政治の力が不可欠である。間もなく参議院選挙が実施されるが、デジタル・ファーストに対する政党と候補者の考え方にも注目したい。

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