世界的な金利低下、トランプ政権誕生を懸念?

2016年06月12日 06:00

トランプ

バロンズ誌、今週のカバーは年央のラウンドテーブルを掲げる。ゴールドマン・サックスのアビー・コーエン氏から新債券王のジェフリー・ガンドラックまで、9人を電話インタビューし、1月時点から投資手法に変更がないかヒアリングしたものだ。ガンドラック氏は、米利上げのタイミングについて7月でも時期尚早とし具体的な予想を立てず。ただし、1月当時と同じく共和党のトランプ候補が米大統領の座を射止めるとの予想を据え置いた。一方で、フェリックス・ズラウフ氏は中国に懐疑的だ。マーケットは中国経済が加速し始め世界経済をけん引する期待を高めるものの、反対方向へ進み下半期はさらに景気減速に直面すると見込む。その他の参加者が推奨する銘柄を含め、詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは、マイナス金利とトランプ新政権誕生での金融市場に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。


世界で高まる懸念、マイナス金利を加速—Global Worries Spur Negative Interest Rates

「金を貸せば、金も友も失う」とは、ハムレットの一節だ。現代において、投資家はマイナス金利の国債に資金を投じている。マイナス金利を導入する国・地域の債券発行額および投資家保有高は10兆ドルを超え、さらに増加中。独10年債利回りは10日に0.028%、スイス10年債利回りは0.50%、本邦10年債利回りも0.17%と記録的な水準へ低下した(米10年債利回りは1.64%と、2013年5月以来の水準へ低下)。

なぜ賢明な投資家は、国債へ資金を振り向けるのか?デフレに陥れば、リターンが得られるだろう。英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙によれば、独のコメルツバンクはむしろ欧州中央銀行(ECB)に利子を払って預金するより、現金を手元に保管する案を検討しているようだが。

コメルツバンクのような動きを予想したのか、シカゴ地区連銀はツイッターで100ドル札を1マイル(1.6km)積み上げたとしても、14億ドルにとどまると伝えた。金融機関が現金を保管するには、広大な土地が必要だとの示唆を与えている。一方、米10年債利回りの1.64%は過去から見て最低水準だが、世界的にみてまだ魅力的だ。米30年債利回りの2.46%は、BREXITを見据え低下を続ける英30年債利回りの2.06%を踏まえれば高水準にある。

現金保有での負担より、金利を支払う方が得策?

chicago
(出所:Twitter

投資家がマイナス金利を導入する国・地域の国債に群がる理由の一つは、米5月雇用統計だろう。米10年債利回りの低下に合わせ市場心理が変化しVIX指数は上昇に転じ、銅先物は約2ヵ月ぶりの安値をつけた。

13日週は、米連邦公開市場委員会(FOMC)を控える。6日の講演で米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は「数ヵ月先」の文言を外し、経済指標次第との言葉を繰り返した。しかし、経済指標は芳しくない。米5月雇用統計に加え労働市場情勢指数(LMCI)は2014年12月から伸びが鈍化し、直近ではマイナスをたどる。

FOMCは今回、利上げを見送るだろう。問題は、足元で年2回の示唆を与えるFF金利見通しだ。マーケットはと言えばFF先物市場動向をみると12月に1回の利上げしか織り込まず、低下トレンドに入った国債利回りと株式市場も同様と言える。

共和党の正式指名が確実視されるドナルド・トランプ候補は、金融市場に強気なのだろうか?FT紙に寄稿したローレンス・サマーズ元米財務長官は、少なくともそう見ていない。トランプ米大統領が誕生すれば、1年半以内に貿易戦争が勃発し深刻な景気後退に陥ると予想した。その一方で、トランプ政権が経済を加速させドル高をもたらし、米金利を引き上げ、米株と米債にダメージを与えるとの見方もある。あるいはトランプ流の”ヘリコプター・マネー”で減税を補填し公的支出を補填し、米債や金先物の価格を押し上げ、ドルを押し下げるとの観測もある。

カナダに本拠地を置くBCAリサーチはどうか。トランプ候補が掲げる3大公約、すなわち1)債券発行に依存したインフラ支出、2)厳格な移民政策、3)通商保護——は、ドル高をもたらすと分析。こうした政策は「米経済の過熱を招き、Fedに利上げを促す」という。また保護貿易により貿易赤字が縮小し、貿易戦争勃発でも2013年の米国債格下げ時点と同じように安全資産としてのドルに資金が流入すると見込まれる。世界が米国債の売却に傾けば、Fedが買い入れるだろう。

マクロメイブンズのステファニー・ポンボイ氏は、トランプ政権での債務不履行すら否定しない。高齢化社会では歳出も拡大するだけにヘリコプター・マネーに依存せざるを得ず、2008年に直撃した金融危機と同じようにドル安・米債高・金先物の上昇を招く見通しだ。

サマーズ氏が正しければ米国は1930年代のような苛烈な景気後退入りに直面し、BCAリサーチの予想が的中すれば米経済が過熱するというわけだ。ポンボイ氏の見通しに沿えば、債務不履行の憂き目に遭いながらヘリコプター・マネー出動が考えられる。いずれにしても、トランプ政権誕生まで様々な予想が飛び出すことだろう。


もうひとつの名物コラム、ストリートワイズは2つの銘柄をテーマに挙げる。抄訳は、以下の通り。


ホームデポとP&G、良き時代は終焉を迎えたのか?—Home Depot and P&G: Are the Good Times Over?

投資家はこれまで、安定的なリターンを付与するホームデポやP&Gなど質の高い銘柄に資金を投じてきた。”パワーハウス S&P500 クオリティ(SPHQ)”のリターンは8.9%と、”スパイダー S&P500 ETF(SPX)”の1.7%を大きく上回る。

しかし一連の質の高い銘柄は割安と言えず、全体の業績が上向けば需要が低下するはずだ。例えば株価収益率(PER)をみると、SPHQは26.1倍と5年間の中央値20.6倍を軽く超えている。SPYは17.9倍と過去5年間の中央値16.3倍を小幅に上回る程度だ。また、業績に改善の兆しが現れている。S&P500構成企業は原油安とドル高の煽りから2015年末までに過去4四半期に15%の減益を計上した。もっとも、足元でドルは4.1%値下がりし、原油先物は2月から90%近く買い戻された。従って質の高い銘柄から、他銘柄へ資金が流入してもおかしくない。


世界的な金利低下は、英国民投票およびFOMC前の一時的な流れなのか見極めが必要でしょう。一方で、ダウが18000ドル付近で戻り売りに押されるように、経済回復による一段高を見込んでいない事情も垣間みれます。米大統領選への行方が懸念材料なのは一目瞭然で、トランプ米大統領の誕生でのリスク・オフ相場を織り込んでいるかのようです。バロンズ誌で取り上げた楽観論に則しても、トランプ政権での株高は少なくとも短命と見られていれば、尚更ですね。インフラ投資と保護貿易で一時的に米経済が加速しても、S&P500構成企業の利益のうち3分の1を海外に依存するなかでは「アメリカをもう一度偉大な国にする(make America great again)」にも片手落ちといったところでしょう。

(カバー写真:Gage Skidmore/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年6月11日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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