英国のEU離脱となれば誰が損か?

岡本 裕明

刻々と迫る6月23日の英国の国民投票。各種世論調査では離脱派がリードを広げているという内容が多く、不安感が台頭しています。離脱派も残留派もそれなりに説得力のある主張がありますが、一応、離脱という結果になった場合、いったい誰が一番損をするのでしょうか?

まず短期的視点です。市場関係者からはポンドもユーロも下落、円が対ドルで100円ぐらいまで買われるのではないか、とされています。直近の世界の株式市場を見ると一番派手にやられているのが日本であります。離脱となれば日本の株式市場のボラティリティの高さからすれば日経平均は瞬間的に4ケタ近い下落があってもおかしくない気がします。昨日のマザーズは10%以上下落していますが、その理由はリスク回避のよる換金売り。7割が個人投資家を占めるこの市場の腰の軽さが見て取れます。このペースならば投票日までの残り8日間で東京市場は疲弊し、追証が発生し、その前にボロボロになってしまいそうな気がします。つまりオーバーシュートによる自滅状態で短期的に一番影響を被るのは日本のような気がします。

では当事国の英国ですが、もちろん、離脱ショックはあると思いますが、比較的短期間で第一段階の初期立て直しは可能かと思います。第一段階とは離脱に伴う精神的ショックを伴う様々な観測が入り乱れることで世の中が混乱することですが、早期の収拾は可能でしょう。

英国中銀はこの日のために1年前から対策を練っています。市場への資金供与も通常の月一から週一に変えて金融市場の混乱を未然に防ぐ対策を作り上げています。中銀総裁のカーニー氏はもともとカナダ中銀の総裁でカナダ人です。氏が総裁だった時のカナダ金融市場のコントロールと安定感は抜群で圧倒的な能力をお持ちの方です。期待してよいと思います。

英国は外交的に三つの軸があります。一つ目は旧大英帝国のつながりでカナダ、オーストラリア、インド、南アフリカなどとの深い結びつきを利用した新たな同盟づくりが非常に早く進むとみています。二つ目は中国です。AIIBにいち早く手を挙げ、習近平国家主席が訪英した際、女王をはじめ、最高のもてなしをしたことは記憶に新しいところです。英国はもともと香港を99年間租借していた関係もあり、中国とはそれなりの縁がある国であります。

最後にアメリカですがプロテススタントとして歴史的結びつきはもちろん、JIBs(日本、イスラエル、英国)と称するアメリカを取り囲む結束の固い関係があります。つまり、英国にとって立て直し策のネタはかなり多いと考えられるのです。

一方、ガタガタになるのが大陸に残されたEU諸国であります。短期的にEU離脱派の声が高まることはもちろんですが、EUの中心となるドイツに対する目線が今後どうなるのか、読みにくい点があります。それは2017年に控える選挙であります。しかもそれはドイツにとどまらず、フランス、オランダも含むEUのオリジナル組成組の改選期に当たるのであります。

特に気になるのがフランスで極右政権である国民戦線のマリーヌ ル ペン氏、はたまたドイツのAfD(ドイツのための選択肢党)もEU離脱を主張しており、先日話題になったオーストリアの極右政党、自由党の大躍進とともに欧州大陸の一枚岩が維持できるのか数多くのチャレンジを控えています。

また、ドイツはトルコと、フランスはロシアと軸ができつつあり、欧州内部での力関係がEU外の国との政治的結びつきを含め、非常に複雑になってきていることは事実です。

こう見ると短期的には英国は非常に大きな危機にされされると思いますが、比較的早く回復する力は持ち合わせていると思います。一方、EUは構造的問題とされる共通通貨ユーロのあり方を含め、崩壊の可能性が真剣に取りざたされることもあるでしょう。確かルービニ教授はすでにそれを指摘していたはずです。

アメリカ大統領選で見るとトランプ氏は英国離脱支持派ですのでトランプ氏を利することとなります。

日本は外から見たセーフヘイブン、中から見た市場のかく乱で金融市場だけが一時的に大きく動揺することになりそうです。ただし、この手の話も常にオーバーシュートが伴います。この荒波に乗じてひと儲けなどというのは台風の日にサーフィンをする若者と同じです。まずは静観すべきでしょう。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 6月15日付より