バロンズ誌:BREXITは、2016年版Y2K問題なのか

2016年06月19日 06:00

BREXIT

バロンズ誌、今週のカバーは”2016年版:ベスト腕時計”を取り上げます。BREXITを問う英国民投票を前にビッグ・ベンを連想させたわけではありません。2015年、スイス時計の輸出は2009年以来で初の減少を記録しました。結果、時計メーカーはねじを締めながら費用を削減すると共にエントリーレベルを充実させ、富裕層以外の客層取り込みに奔走しています。とはいえ、”2016年版:ベスト腕時計”のトップは超高級時計メーカーの王道、パテック・フィリップの”ワールド・タイム・クロノグラフ”で、お値段は7万3700ドル(約780万円)也。その他の詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは、もちろんBREXITを掲げます。抄訳は、以下の通り。


BREXITは、現代のY2K問題か?—Brexit, Another Y2K?

日の沈まない国、英国が全世界、特に金融市場に多大なる影響を与えかねない。

英国人に欧州連合(EU)からの脱退を問う国民投票を6月23日に控え、メディアやマーケットは取り憑かれたかのようだ。英国紙タイムズが過去にドーバー海峡に霧が立ち込めた様子を受けて「Fog in the channel continent isolated(海峡に濃霧 大陸から孤立)」と伝えた逆を行く展開を迎え、EUからの英国独立が問題視されている。

英国が欧州を必要とするより、欧州は英国を必要としているかもしれない。英国の国内総生産(GDP)はカリフォルニア州を上回り世界で5番目の規模で、格付けとして最上級の”トリプルA”を有する。債務超過で知られるギリシャのユーロ圏離脱より、由々しき事態を招きかねない。

いずれにしても、イギリス人がBREXITを決断した時に何が起こるかは分からない。ロンドンに拠点を置く証券会社ミント・パートナーズのビル・ブレイン氏にとって、BREXITは「Y2K問題を彷彿とさせる」という。2000年になればコンピューターの誤作動が生じるとの噂がそこかしこで広がった半面、何の障害も発生しなかったのは周知の事実である。また、ブレイン氏が指摘するように「世界の中銀は流動性を供給する用意がある」状況だ。

マーケットは、落ち着きを取り戻しつつある。ただし、EU残留支持派のジョー・コックス英下院議員(労働党)が16日に対話集会で射殺された悲劇を通じBREXIT観測が後退したからに過ぎない。S&P500は依然として1.2%安、ダウも1.1%安で引け、後者の下落は週足にて過去1ヵ月間で最大だった。国債利回りは低下を続け、独10年債利回りは初めてゼロを割り込んだ。英10年債利回りも1.12%と1年ぶりの低水準を示す。

英FTSE100、16日でいったんは底打ち。

ftse
(出所:Stockcharts)

金融政策は、引き続き最後の砦であり唯一の頼みの綱だろう。ユーロ圏と日本では積極的に緩和策に打って出ており、米国は利上げを差し控える状況だ。米連邦公開市場委員会(FOMC)は、FF金利予想を表すドットチャートを引き下げた。FF先物市場は、12月利上げですら38%しか織り込んでいない

セントルイス連銀のブラード総裁が17日に公表したレポートも、利上げに慎重な姿勢を伺わせる。成長率2%程度、失業率4.7%、目標値2%付近のインフレ——という環境では、年1回の利上げが適切と著した。2017年と2018年においてもブラード総裁は複数の利上げに懐疑的で、FF先物市場での織り込み度と整合的だ。ブラード総裁と言えばかつて他のFOMC参加者と同じく早々の利上げが適切と判断していた一人だが、あらためて立場を変更させている。米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長率いるFOMCはFF金利を徐々に”正常化”させ3%付近へ引き上げていく方針だが、ゼロ金利の世界での3%はまるで”正常”に感じられない。

米大統領選の予備選が終了し、米株相場は民主党のクリントン候補の勝利への予想に傾き始めた。ストラテガス・リサーチいわくセクター・パフォーマンスは米大統領選動向に沿う傾向が高く「2012年は(オバマ再選を当て込み)病院関連の買い、石炭株の売り」が目立っていた。2016年は、逆に「”iシェアーズ NASDAQ バイオテクノロジーETF(IBB)”はクリントン候補の世論調査動向と反比例関係にある」という。民主党のロン・ワイデン米上院議員(オレゴン州選出)がギリアド・サイエンシズのC型肝炎治療薬”ソバルディ”の価格を問題視したように、民主党政権では薬価引き下げを余儀なくされるとの見通しがあるためだ。ストラテガスは、特に米下院で共和党が敗北し多数派を失えば製薬セクターやバイオ株の売りを予想する。

クリントン候補が5年間で2750億ドルのインフラ投資を提案するなかで、同セクターは堅調だ。財源の詳細に触れていないなかで米下院で共和党が多数派を確保すれば可決が困難となるものの、トランプ候補も公的支出拡大を掲げるだけに既に一部の銘柄に買いが入っている。マーケットは少なくともBREXITだけでなく、米大統領選の先を見据えているようだ。


さて、今週はストリートワイズをパスしてBREXITに焦点を当てた記事をもう1本ご紹介しましょう。


米国にとって、BREXITは何を意味するか?—What Does Brexit Mean for U.S. Markets?

英国民がBREXITを選択すれば、米株市場にどのような影響を与えるのだろうか?覚えたおきたい点として、英国のEU脱退に国民投票は義務措置ではなく脱退プロセスに必要不可欠というわけではない。従って英国民投票でBREXITを決断したとしても、EU残留派のキャメロン英首相が脱退を阻止する可能性がある。英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙が指摘済みで、「英議会が再交渉し、国民投票をあらためて行うと考えられる」と伝えていた。もちろん、BREXIT支持票が多数であれば政治家は結果を尊重せざるを得ないとの見方もある。

米国では現状、BREXITの悪影響を見込む意見が優勢だ。ルー米財務長官は「経済的に負の影響しか考えられず、地政学的安定を脅かす」と警句を放つ。JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)も「不安定な時期が何年に及ぶとみられ、英国並びにEUの経済に打撃を与えるだろう」と予想していた。

しかし、ブルッキングス研究所はNYの金融業界が恩恵を受けるという興味深い分析を披露していた。BREXITで株式市場が下落へ向かったとしても「短期的に米国の一部のセクター、特に金融関連の上昇を促す」という。英国から多くの企業が撤退を余儀なくされロンドンが金融の拠点としての威光を失えば、ウォール街に資金が流入するシナリオはあり得よう。

ブルームバーグのマット・ウィンカー氏は、英国の株式指数FTSE100のインプライド・ボラティリティに注目。1ヵ月物並びに1年先のインプライド・ボラティリティは低下しており、「ボラティリティが高まる可能性を反映させていない」。投資家は、そこまでBREXITに対しそこまで懸念していないのではないか。


BREXITをめぐってコックス英議員が殺害される悲劇がEU離脱のブレーキとなる可能性が報じられたものの、17日の米株相場は下落して終了していました。欧州株が上昇して引けたにも関わらず、追随せず。テクニカル的にも50日移動平均線で上値の重さを意識し、動きづらい状況のようです。BREXITを決断した場合、欧州の統合が妨げられ安全保障面でのリスクも意識されるほか、手続きに多大なる時間(一説には7年を要する)への不透明感は拭えません。6月23日にBREXITが回避されたとしても、4〜6月期決算シーズンを控えるために最高値更新の余地は狭いのではないでしょうか。

(カバー写真:Rareclass/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年6月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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