英国民、EU離脱にまさかのイエス

安田 佐和子

BREXIT

英国で実施された欧州連合(EU)の離脱すなわちBREXITを問う国民投票で、まさかのイエスが突き付けられた。

歴史的な開票結果は、離脱派が51.9%と過半数を獲得。事前の世論調査に反し、残留派は48.1%に終わった。投票率は72%。キャメロン英首相は、開票終了後に開いた記者会見で辞任の意思を発表した。

驚愕の結果は、こちら。

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(出所:BBC

金融市場にボラティリティの嵐が吹き荒れ、ポンドドルは東京時間で一時1.3229ドルと、プラザ合意の年で知られる1985年以来の水準までポンド安・ドル高の展開に。ポンド売りの対局で円が急伸し、ポンド円は一時133.31円と2012年12月以来の水準まで下落した。ドル円は一時99.02円と2013年11月以来の100円割れに至った。

BREXITを決断した国民投票後、金融市場はどこへ向かうのか。モルガン・スタンレーは、以下のシナリオを予想する。

▽経済的な影響
・英国を不透明の霧が覆い投資と消費が減退、あまりオープンではなくなった経済では潜在成長率を押し下げよう。イングランド銀行は緩和バイアスの維持を余儀なくされ、離脱交渉次第で2018年まで据え置きあるいは同年までに10bp利下げ+量的緩和を見込む。

▽為替、6ヵ月見通し
・ポンドドル 1.25~1.30ドル
円高が進みドル円は90円、豪ドル円を70円
・ユーロドル 1.05ドル
・ユーロ/スイスフラン、1.02CHF
・エマージジング通貨では、ポーランド・ズローチと南アフリカ・ランドの売りを推奨

▽金利見通し
欧州中央銀行(ECB)による社債買入プログラム(CSPP)を背景に、為替と株式を大きくアウトパフォームへ
・英10年債の利回りは30~35bp低下し過去最低を更新する見通しだが、ブレークイーブン・インフレ率はポンド安を受けて上昇へ
・エマージング債では通貨と同じく南アのほか、トルコの売りを推奨。

▽株式市場見通し
・欧州株は6月23日の水準から15~20%の下落へ
・利益を5%押し下げ、株価収益率(PER)は過去の水準へ戻す
・セクター別では生活必需品、ヘルスケア、またユーロ安恩恵銘柄を推奨

▽今後の注目
・ECBは、通貨スワップや緊急流動性支援(ELA)を通じた流動性供給を強調へ
・債券、株式、金利、クレジットを含め米国が安全資産として位置づけらる見通し、反対にBREXITから派生するリスクは米株よりエマージング株で色濃く波及へ

ミラー紙、BREXITを決断した朝のカバーはこちら。

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(出所:The Guardian via Geert Wilders/Twitter)

JPモルガンの予想は、以下の通り。

▽イングランド銀行の金融政策
7月と8月に、それぞれ25bpずつの利下げを断行
介入なし、通貨安で緩和政策を補強し経済的な衝撃を吸収できる上に外貨準備高は約1400億ドル(5月末時点)と低水準

BREXITの結果を受けた当局の行動は、以下の通り。

・イングランド銀行は声明を公表、「必要な行動を取る用意がある」
・麻生財務相、記者会見にて「必要な時に、しっかり対応」、黒田日銀総裁も「流動性を潤沢に供給する用意あり、動向を注視」と発言
・ターンブル豪首相「豪経済はBREXITに耐性がある、英国との友好関係及びEUとの自由貿易交渉は継続」

このほか、韓国政府はBREXITを受けて緊急会合を開催したとのニュースが伝わった。世界同時株安の火が点くなかで、中国の動向にも注視したい。オーストラリア・ニュージーランド銀行は、預金準備率の引き下げを予想。モルガン・スタンレー・キャピタル・インデックス(MSCI)の新興国株式指数組み入れがかなわなかった事情もあり、急落に備え中国当局が行動に出る可能性は低くないだろう。

――個人的に、世論調査と逆を行く展開となった一因としては、ジョー・コックス英下院議員の殺害事件が影響したと思われます。EU離脱派による犯行を受けて、BREXIT賛成と言えない雰囲気になってしまいましたよね。匿名で回答できたとしても、ネットではIPアドレスを使い電話では相手に自分の意見を伝えるわけで、正直に回答したとは考えられません。いずれにしても、右派勢力が台頭する余地を残します。早速、フランスの国民戦線のマリーヌ・ルペン党首やヘルト・ウィルダース党首は歓迎の意を表明。各国でEU脱退へ波及するリスクもあり、世界は不透明性という大航海時代に突き進んだといっても過言ではありません。

(カバー写真:DAVID HOLT/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年6月24日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。