【映画評】日本で一番悪い奴ら

渡 まち子
日本で一番悪い
大学時代に鳴らした柔道の腕を買われて北海道警察の刑事となった諸星要一は、強い正義感を持っていたが、うだつの上がらない毎日を送っていた。ある日、署内随一の敏腕刑事の村井から「刑事の出世に必要なのは点数。点数稼ぐには裏社会に飛び込み、S(スパイ)をつくれ」と刑事のイロハを叩き込まれる。言われるがままにSを率い、ヤクザの黒岩、麻薬の運び屋の太郎、盗難車バイヤーで拳銃横流しのパキスタン人ラシードらを使って、規格外のヤバすぎる捜査を行い、みるみる道警のエースへとのしあがっていく。公私ともに一線を越えた諸星は、上司の命令もあって、やらせ逮捕、おとり捜査、拳銃購入、覚せい剤密輸と危険すぎる捜査を繰り返し、ありとあらゆる悪事に手を染めながら、やがて、税関、道警を巻き込んだ日本警察史上最大の不祥事を引き起こす…。

 

2002年に北海道で起きた日本警察史上最大の不祥事・稲葉事件をモチーフにした「日本で一番悪い奴ら」。警察と暴力団の癒着、麻薬や拳銃の不正なやりとりなど、あらゆる悪事に手を染め、黒い刑事と呼ばれた主人公・諸星は、最初は、正義感にあふれる、純情でまっすぐな青年として登場する。26年間の間になぜここまで堕ちてしまったのか。映画は、テンポのいい語り口と、クセのある面構えの役者陣でクライム・エンタテインメントとして一気に駆け抜ける。俳優たちは皆好演だが、中でも、群を抜いて素晴らしいのが主演の綾野剛だ。役作りで10kg増減させての熱演もさることながら、どこか愛嬌があるのに善悪の見境を失くし、自らの人脈の悪にまみれながら転がり落ちていく様を演じて最高の演技を見せる。

諸星らが行う“悪さ”と、北海道警察内部の腐りきった体質を複眼で見る観客は、どこかで組織を信じて「正義の味方、悪を絶つ」の信念のもとに立ち回る諸星が哀れに思えてならないだろう。「凶悪」で注目された白石和彌監督は、伝統的な東映ヤクザ映画のカラーを尊重しつつ、主人公がさまざまな仲間と出会って別れていく青春映画、何よりも「グッドフェローズ」を連想させる実録クライム・サスペンスの面白さを持つ作品として仕上げた。ちなみに最近性懲りもなく北海道警察の不祥事が明るみにでて、思いがけない“宣伝”になってしまったのは、苦笑するしかない。日本の警察よ、しっかりしてくれ!
【75点】
(原題「日本で一番悪い奴ら」)
(日本/白石和彌監督/綾野剛、YOUNG DAIS、中村獅童、他)
(モラル度:★☆☆☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年6月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。