バロンズ誌:BREXITはEU崩壊の引き金を引いたのか

2016年06月27日 14:50

baronzbrexit

バロンズ誌、今週のカバーはもちろんBREXITを掲げる。ダウをはじめS&P500とナスダックは、それぞれ24日に3%以上沈んだで取引を終えた。しかし、2009年3月に幕開けした強気相場が終焉を迎えるとは限らない。米株はどのマーケットより世界動向に耐性があり、米企業のうち73%は売上を国内に依存する。日本の58%、欧州の49%とは対照的だ。年初来リターンでも、米株は別格の存在感を放つ。ユーロ・ストックス50指数がユーロ建てで15%安、東証株価指数(TOPIX)が22%安であるのに対し、ダウは0.14%安、S&P500も0.3%安と小幅な落ち込みに過ぎない。米10年債利回りは1.56%と年初来で最低を示し、S&P500の構成銘柄のうち60%が配当利回りで米10年債利回りを上回るなかで、米株はBREXITの荒波を潜り抜けていくのではないか。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、こちらのテーマも当然BREXITで抄訳は以下の通り。


英国のEU離脱は、EUの終わりの始まりなのか—Brexit: Is It the Beginning of the End for the EU?

「人は持ちつ持たれつ(No man is an island)」とは英国人の詩人ジョン・ダンの言葉だが、彼の同胞は23日に実施された国民投票で欧州から地理的にだけでなく政治的に袂を分かった。世界中に衝撃が走り株式市場は急落。各国の通貨や利回りも低下し、さながら2008年9月15日のリーマン・ショックの再来のようだ。

バロンズ誌のラウンドテーブルの一角を担うズラウフ・アセット・マネジメントのフェリックス・ズラウフ氏(スイス在住)は、BREXITが「EU崩壊の始まり」と予想する。同氏はBREXITの余波として、26日のスペイン議会選挙で急進的な左派政党”ポデモス”など反主流派が躍進し連立政権入りする可能性すら指摘。さらに、英国の次はオランダがEU離脱に向けた国民投票の実施を見込む。

フランスではマリーヌ・ルペン党首率いる極右の”国民戦線”が国民投票を呼びかけ、デンマークやスウェーデンをはじめとした大衆主義の各党が国民投票の実施に傾き始めた。英国内では、スコットランドが再び独立に向けた国民投票に踏み切るだろう。さらにアイルランドの民族主義政党であるシン・フェイン党も、あらためてアイルランド統一を目指した国民投票を求めつつある。

こうした政治的な混沌は、ズラウフ氏によると「数年続き」、英国とEUの離婚協議は「少なくとも2年」かかる見通しだ。英国でのBREXITをめぐる国民投票の実施を公約として掲げたキャメロン英首相は早々に辞任の意志を表明、EU離脱協議は10月に保守党が決める後任に委ねられることとなった。米国は11月、米大統領選挙を控える。

英エコノミスト誌の6月25日号(左)はAI特集で、EU離脱なしを見込んだ模様。中央は6月18日号、左は2008年9月27日号の表紙。
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(出所:Economist

”強欲と恐怖のニュースレター(Greed & Fear newsletter)”を執筆するCLSAのクリストファー・ウッド氏は、政治的な余震はユーロ圏で特に感じられるという。ウッド氏によれば「ユーロ圏分裂の引き金を引くのは、イタリア」だ。イタリアの国内総生産(GDP)は失われた20年を経験する日本を下回り、ユーロ圏が発足した1999年から日本のGDPは14%増加した半面、イタリアは5.4%増加した程度である。

S&P500は24日に中国人民元が切り下げを実施した2015年8月以来の下落率となる3.6%安を示し、2037.41で引けた。2月11日の1810.10を11%上回る水準とはいえ、年初来の上昇を全て打ち消した格好だ。ズラウフ氏は、2016年末から2017年春にかけ回復を見込むものの、短期的には一段の下落を見込む。CLSAのウッド氏も、5〜7%安を予想する。

S&Pのハワード・シルバーブラット氏によると、BREXITは世界株式相場の時価総額から2兆ドルを吹き飛ばした。年初来で見れば1.5兆ドル相当が失われたことになる。当の英国の株式指数FTSE100は3%下落し、ドル建てのiシェアーズ MSCI英国ETF(EWU)に至っては12%も沈んだ。

ポンドドルはというと1.50ドルをピークに1.3238ドルと11.9%も急落した後で9%安まで持ち直したが、1992年のブラック・ウェンズデー当時の2倍の下落率を示す。日興アセットマネジメントのジョン・バリ氏いわく、ポンドには依然として下落余地があり1年先に1.27ドルへ沈む見通しだ。英国の経常赤字はGDPの7%に相当し、海外のマネーによる補填を必要とする。これまでロンドンはEU加盟国という地位をテコに金融のメッカ、文化の中心地として繁栄を謳歌してきたが、EU離脱を決めた今となってはこうした恩恵が失われることだろう。BREXITで生じたポンド安は、確かに衝撃を吸収する緩衝材となり得る。輸出競争力を高め、観光客を呼び込むと考えられるためだ。しかし、どこまでBREXITの悪材料を消化できるかは不透明である。

24日に1.1117ドルと2.4%下落したユーロも他人事ではない。ズラウフ氏は、ユーロドルの下落とともにユーロ圏への資本流入の減少を予想する。逆に安全資産として燦然と煌めくのは円であり、対ドルで3.7%上昇。ドル円は102.20円までドル安・円高が進み、一時は100円すら割り込んだ。

欧州中央銀行(ECB)や日銀は、量的緩和(QE)により成長を支援してきた。そもそもQEの目的は自国通貨安であり、輸出拡大にある。BREXITは、主要7ヵ国(G7)に追加緩和実施への口実を与えるだろう。米連邦公開市場委員会(FOMC)も例外ではなく、FF先物市場は7月、9月、11月の利下げを織り込み始めた。12月のみ利上げが15%と利下げの11%を上回る状況である。G7はまた、インフラ投資による景気刺激策と講じてくるだろう。世界の中銀が何をしようがしまいが、政治的及び経済的な不透明性はそう簡単に消えそうもないが。


もうひとつの名物コラム、ストリートワイズはBREXITが与えた銀行株への衝撃にスポットライトを当てる。抄訳は、以下の通り。


銀行による、BREXITへの挑戦—Banks’ Brexit Challenge

SPDR S&P バンク ETF(KBE)は23日、4.1%高で取引を終えた。世論調査を受けたBREXIT回避に加え、FRBによるストレステスト結果を好感したためだ。一転して24日は、7.2%も急落して引け。欧州へのエクスポージャーを考えれば、銀行株はさらに下落しうる。例えばシティグループ(C)は収入の15.8%を欧州・中東・アフリカ(EMEA)に依存し、JPモルガン(JPM)は15%、バンク・オブ・アメリカ(BOA、BAC)も7.8%となる。モルガン・スタンレーは噂を否定しているものの、既にロンドンでレイオフに踏み切り、従業員を移転させつつあるという。再編コストは、利益を圧迫しかねない。

シティグループのアナリスト、キース・ホロウィッツ氏によると銀行の株価はこれまで、ゆるやかだとしても利上げを織り込んで推移してきた。つまり利上げなしの場合、銀行株の適正水準(フェアバリュー)は低くなってしまう。BOAであれば24日の引け値13ドルから3.8%安の12.5ドルへの下落余地を示し、ウェルズ・ファーゴ(WFC)では24日の引け値46ドルから5.9%安の43ドルが見込まれる。

悪いニュースばかりではない。少なくともストレステストでは、対象33行の資本が最も深刻な逆境シナリオでも健全であることが明らかになった。33行の自己資本とされる普通株式等Tier1の比率は、FRBが設定する最低基準4.5%を大きく上回る8.4%であり、29日に公表される包括的資本分析およびレビュー(CCAR、銀行の自社株買いや増配への評価)も無事に消化してくるだろう。株主還元策は利益性の問題を解決しないが、少なくとも鎮痛剤の役割を果たすに違いない。


BREXITの衝撃が走り、世界は不透明性時代へ突き進みつつあります。金融市場が落ち着くには時間が掛かるのでしょうが、米株については意外に早くやってくる可能性が残ります。リーマン・ショック発生後、米株が底打ちするまで約半年を要したに過ぎず、2015年8月並びに今年2月の株安局面でも下落開始から2ヵ月後には元の水準へ戻してきたものです。米国の景気減速という懸念材料を抱えるものの、例えば家計の債務比率を踏まえれば個人消費がリーマン・ショック並みに落ち込むリスクは低い。資産効果が期待できなくとも、生活必需品を中心に底堅い消費を示すのではないでしょうか。

米大統領選挙への影響も気になるところではありますが、共和党のトランプ候補の追い風になるかは疑問が残ります。最新の世論調査結果をみてみましょう。

NBC/ABC(6/19〜23)
クリントン 46%> トランプ 41%
→クリントン候補のリードは5%ポイント、5月の3%ポイント(46%>43%)から拡大。

ワシントン・ポスト/ABC(6/20〜6/23)
クリントン 51%> トランプ 39%
→クリントン候補のリードは12%ポイント、5月の2%ポイント(46%>44%)から大幅に拡大。

BREXITが決定した翌日にスコットランド入りしたトランプ候補、現地で投票結果を讃えるコメントを送ったものの英国で最も残留はが多かったのはそのスコットランドであり、間が悪いこと限りなし。早速、ツイッターではEU残留派が多いスコットランドが黄色である事情にかけて「そのニセモノ日焼けより黄色い」などと揶揄していました。あのツイッターは、トランプ候補の学習能力及び情勢判断力の欠如を露呈したとも言えます。

もちろん、24日以前の記事なのでこれから情勢が変化する可能性は捨てきれません。ただ、ツイッターやフェイスブックで「アメリカ人よ、頭を冷やせ」とトランプ支持をいさめる意見が見られています。確かにAPなどBREXITとトランプ旋風の共通点を報道するメディアも存在しますが、このサイトは人種構成を理由に米国は英国と違うと指摘していました。

アメリカ人女優グウィネス・パルトロウとイギリス人ロッカーのクリス・マーティン、2014年に離婚。
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(出所:Slate

トランプ候補は白人を中心に支持を広げたものの、白人以外の人種のほか女性の支持に課題を残します。BREXIT後の失言などで墓穴を掘るリスクすらはらむため、BREXITがトランプ候補の支持拡大につながるかは微妙と言わざるを得ません。

(カバー写真:threefishsleeping/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年6月27日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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