【映画評】アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅

 

アリスは父の形見であるワンダー号での航海を終えて3年ぶりにロンドンに戻るが、雇い主から大切な船を奪われそうになる。失意のアリスの前に、青い蝶アブソレムが現れ、マッドハッターの危機を告げる。過去に心を奪われ、帰らぬ家族を待ち続けるハッターを救うため、アリスは再びワンダーランドを訪れ、白の女王、チェシャ猫ら、懐かしい仲間たちと再会。アリスは、大切な友だちであるマッドハッターのため、時間の番人・タイムが持つ、時間をコントロールできる“クロノスフィア”を盗み、過去を変える禁断の旅に出るが…。

大ヒットした「アリス・イン・ワンダーランド」の待望の続編だが、ティム・バートンは今回は製作にまわり、「ザ・マペッツ」のジェームズ・ボビン監督がメガホンをとっている。これがそもそもマズい。バートンという特濃の才能を意識するあまり、没個性の演出に陥った本作は、タイムトラベルものにつきものの矛盾を差し引いても、何だか魅力に乏しいものだ。相変わらずの凝りに凝った映像はクラクラするほどの色彩にあふれ独特の世界観を堪能できるが、ジョニー・デップ演じるマッド・ハンターが終始暗いのでさっぱり楽しくない。怪演が個性のサシャ・バロン・コーエンも重要な役どころなのに、どこかパンチ不足だ。赤の女王と白の女王の姉妹の不和の原因が明かされるのは、興味深いエピソードだったが、原作である「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」から、前作以上に大きく離れた物語は、原作ファンにとっては不満が残るかもしれない。何しろ、ワンダーランドの可愛らしいキャラクターたちはほとんど活躍しないのだから。

とはいえ、過去は変えられないが、未来へと向かって進むことの大切さは、時間は決して敵ではないと気づくことで、しっかりと伝わってきた。ラストにはちょっぴりフェミニズムの香りも。何よりも、前作では新人だったミア・ワシコウスカが、着実なキャリアを積んで、堂々とした存在感を示す女優になっているのが頼もしい。続編としての魅力には欠けるが、時間と折り合いをつけて生きることを学ぶアリスの成長物語としてギリギリセーフといったところだ。
【55点】
(原題「ALICE THROUGH THE LOOKING GLASS」)
(アメリカ/ジェームズ・ボビン監督/ジョニー・デップ、アン・ハサウェイ、ミア・ワシコウスカ、他)
(カラフル度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年7月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。