バロンズ誌:上半期の金融市場、BREXITで終幕

2016年07月03日 06:00

BREXIT

バロンズ誌、今週のカバーに米議会選挙を取り上げる。米大統領選で忘れがちだが、米上院では34議席(共和党24、民主党10)が改選の対象に。2年前の中間選挙で議席数を54に伸ばし多数派を獲得した共和党は勢いを維持できず、クック・ポリティカル・レポート(CPR)のジェニファー・ダフィー氏は「民主党が米上院で過半数を取り戻しかねない」と予想する。米下院では共和党が247議席、民主党が187議席、空席1の状況。CSRのアナリスト、デビッド・ワッサーマン氏も民主党の巻き返しを見込みつつ「5〜21議席にとどまり、過半数には30議席かそれ以上足りない見通しで、米下院では共和党が多数派を維持する公算」だという。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートでは、下半期見通しを展開している。抄訳は、以下の通り。


上半期、マーケットは大混乱—Markets Confound in Year’s First Half

今となっては懐かしさすら感じる米大統領予備選討論会を経て、2人の候補が共和党、民主党での正式指名が確実になっている。報道が正しければ、それぞれ両極端な面々となろう(筆者注:共和党ではニュート・ギングリッジ元下院議長、ニュージャージー州のクリス・クリスティー知事の2人、民主党ではエリザベス・ウォーレン米上院議員、ティム・ケイン米上院議員、フリアン・カストロ米住宅都市開発長官の3人が有力視されている)。

中国をはじめアジア諸国動向に対する懸念、原油を始めとする商品先物の急落、米連邦公開市場委員会(FOMC)の年4回に及ぶ利上げ観測も今となっては昔の話だ。結局、アジアではなく欧州発のBREXITにより世界株式市場の時価総額から3兆ドル吹き飛んだ。ただし、米株の戻りも早く、7月1日までの週は2015年11月以来の上昇幅を遂げ、年初来リターンは再びプラスに転じた。

ボラティリティの激しい半年間を経て、S&P500は配当込みで3.84%のリターンを上げた。特に配当利回りで債券のような役割を果たす公益、通信、生活必需などが牽引した。一方で米10年債利回りは7.97%とS&P500の2倍、米30年債利回りは16.93%と4倍に相当し、過去3番目の高水準を叩き出した。地方債ですら4.33%と株式より高いパフォーマンスを達成している。ジャンク債は16.03%に及び、逆に転換債は2.14%にとどまった。

S&P500、見事な切り返しをみせ、英国民投票前の水準を回復。
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(出所:Stockcharts)

最大の勝者は、ブラジルだろう。大統領の弾劾、ペトロブラス汚職問題、ジカ熱、さらに五輪前の混乱にも関わらず、ボベスパ指数は年初来の6ヵ月間においてドル建てで46.34%もの大幅高を謳歌し、レアル建ての18.51%を大きく上回る。ロシア株もドル建てで20.43%に達し、ルーブル建ての8.19%を超えていった。エマージング通貨が年初の下落を大きく巻き戻したことが奏功しており、金融市場で為替がいかに重要かが伺える。

英国の株式指数FTSE100はというと、ポンド建てで6.89%高だった。ドル建てでは、BREXIT後の急落を受けて3.05%高にとどまる。英経済の減速が意識されるなか、イングランド銀行(BOE)のカーニー総裁は、不透明性の緩衝材として夏の利上げを示唆したものだ。ただし通貨安もあって、インフレに悩まされることになるだろう。

BREXITに関して言うなら、悪い話ばかりではない。バブソン・キャピタル・マネジメントのクリフ・ノリーン氏に言わせてみれば、不透明性は低金利を導き、資産価格を上昇させている。

米10年債利回りや米30年債利回りはそれぞれ、ブロードウェーで大ヒットを博した”ハミルトン”、並びに初代米財務長官のハミルトン氏の時代の水準を下回り、過去最低を更新した。米10年債利回りは一時1.385%、米30年債利回りは2.188%まで低下し、欧州債務危機が吹き荒れた2012年7月24日の1.404%、2.256%を大きく下回る。英10年債利回りも一時0.873%と大英帝国時代にみられなかった水準まで低下した。スペイン、フランス、ドイツ、日本の国債利回りも、過去最低の水準を更新した。

ビアンコ・リサーチによると、6月30日時点で世界で流通する国債35.07兆ドルのうち36%、12.7兆ドル相当の利回りがゼロを割り込んだ。41%に相当する14.5兆ドルの利回りは0〜1%、16%に相当する5.67兆ドルの利回りは1〜2%、6%に相当する2.2兆ドルが2%以上という状況だ。世界中の利回りが低下するなかで、ユーロダラーでの利上げ織り込み度は2018年までの据え置きを描く。米連邦準備制度理事会(FRB)のフィッシャー副議長はマイナス金利導入に否定的な見解を示していた。ひとまず、米6月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が前月比19.0万人増と5月からの急回復が見込まれるものの、市場予想から乖離が生じればボラティリティがマーケットに牙を剥くに違いない。


もうひとつの注目コラム、ストリートワイズが欧州連合(EU)から脱退しない可能性を指摘する。抄訳は以下の通り。


慌てるな、BREXITは人騒がせ?—Relax, Brexit Could Be a False Alarm?

6月23日に実施された英国民投票でEU離脱派が過半数を得たために、S&P500は24〜27日の2営業日だけで5.3%も沈んだ。英国がEUから脱退すれば、オランダやフランスが追随するリスクのではないか?——投資家の間で、こんな不安が渦巻いたことだろう。そんな懸念をよそに、英国は離脱手続き開始に必要なEU基本条約(リスボン条約)の第50条を発動させていない。

BREXIT後に行われたスペイン議会選挙では、反EU派のポデモスが敗北した。ラホイ首相率いる国民党が14議席増やし、議会の33%と同党として過去最高を獲得した点は特筆に値する。ラホイ首相が「(EUを脱退するか否か)実験している場合ではない」と釘を刺したことが奏功したようだ。

英国での反EU派の足並みも乱れ、BREXITを現実にするシナリオを全く描けていない。ボリス・ジョンソン前ロンドン市長は国民投票後に寄稿し「英国は欧州の一部であり、それは変わらない」と強調。6月30日には、保守党党首に立候補しない意志も表明した。

豪銀ウェストパックのストラテジスト、ロバート・レニー氏は英国のEU離脱を疑問視する一人で、確率は40%と見込む。グラスキン・シェフのチーフエコノミスト、デビッド・ローゼンバーグ氏は英国民投票をギリシャの国民投票になぞらえる。2015年7月、EUが求める財政緊縮案をめぐる投票結果は「ノー」が61%と「イエス」の39%を大きく上回った。しかし投票結果も空しく、急進左派連合(SYRIZA)のチプラス政権はEUの要請を受け入れざるを得なかった。

ローゼンバーグ氏いわく、仮に英国がEUに残留すれば官僚主義がはびこるEU体制に変革が訪れるかもしれない。逆に英国がEUから離脱するならば、英国はナショナリズムと保護主義の嵐が吹き荒れた1930年代に戻るリスクが残る。


今回のアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、マーケット動向を淡々と振り返る程度でした。世界の国債利回りの状況は興味深い数字だったとはいえ、欧州中央銀行(ECB)が検討中とされる資産買入の条件緩和に触れていません。これまで経済規模に則した出資比率に沿っていたものの、今後は債券発行高を考慮するという報道がありましたよね。重債務国であるイタリアが利する一方、ドイツの反発は必至であり、バロンズ誌は可能性が低いとみているのでしょうか。

ちなみに米国でのマイナス金利導入の議論、盛り上がらない理由があります。2015年1月29日に公表された2010年8月5日付けのメモで「連邦準備法がFRBに超過準備金利をゼロ以下に設定する権利を与えているか明確ではない」との記述を確認したためです。また、コンピューター・システムにおいてマイナス金利を計算できる能力がないという事実も明記されていました。

BREXIT回避の可能性は、RBSをはじめ他の金融機関のリサーチで「ほぼゼロ」とされています。1)キャメロン英首相が国民投票やり直し観測を却下、2)英国はギリシャではない、3)国民投票に関わる民主主義の問題、4)英国のEU離脱で動き始めた欧州——など、英国にとってEU残留の手立ては断たれているという説明がなされています。米国は英国のEU離脱で欧州との関係をつなぐ仲介役を失うことになるため、希望的観測を提示したのでしょうか。あるいは英利下げで再びドル高へ振れる弊害を意識し、一縷の望みとして観測気球を上げたとも考えられます。

(カバー写真:Rich Girard/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年7月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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