ザ 創業家

創業家とは創業者ではありません。創業者の家族であり、跡継ぎが社長など会社の役員をしている場合もあるし、ない場合もあります。創業家のイメージは良家であり、地元の名士であり、プライドがあり、一般人からすれば格式の違いを感じさせることもあるでしょう。その創業家の反乱がこのところ気になっています。

出光興産といえば出光佐三氏が築き上げた石油帝国。出光氏は1911年に家庭教師をしていた親から当時8000円の軍資金を貰い、出光商会を設立、機械油を扱い、その後、1940年に出光興産として発展していきます。佐三氏の長男、昭介氏はハーバードを出た後、第五代社長を経て、現在は名誉会長。なるほど88歳にして美術館、表千家、松ヶ岡文庫という禅宗の書籍事業など広く文化活動とはやはり創業家としての名声をゆるぎないものにしています。

出光創業家の中心人物、昭介氏は昭和シェル石油との合併にどうしても納得がいかず、現経営陣にその疑問をぶつけたかったものの現社長とはなかなか会えず、経営陣が勝手に進めた合併シナリオということだったのでしょうか?ここにきて創業家が反旗を翻し、合併阻止に動き始めました。

創業家合併反対の理由は出光のイラン系に対して昭和シェルのサウジ系といった問題から出光の大家族経営に対して昭和シェルの強力な組合など様々であります。その「水と油の関係」と言うより「違う種類の油の関係」は昨年8月の合併発表時点からおかしなものでありました。当時の記者会見で出光の月岡社長の表情が全くさえず、本気で合併する気があるのか、と私はこのブログで指摘していました。内憂外患だったのでしょう。

色が違う会社を一緒にするのは表面上は合理化が進むかもしれませんが、組織運営がたやすくありません。サラリーマン社長にとっては功績になるかもしれませんが、その社長就任期間はせいぜい6-8年でしょう。その後会長になったとしても10-12年がいいところです。が、企業は継続性の原則があります。組織も継続します。効率化と短期的な対策だけでは難しいことが今回の創業家の反乱で明白になったところです。

今年は「創業家」が嫌でも目につく年であります。セブンイレブンの伊藤家にしてもセコムの飯田氏にしても話題を提供してくれています。が、私はあえてここの創業家はどうなっているのだろうと思う会社をもう一つ、とらえてみたいと思います。

エアバックで一躍有名になったタカタ。その対応は今日に至るまで全く理解不能の不手際が続きます。この会社は1933年に高田武三氏が彦根で興した会社でシートベルトが主力だったものの、車にエアバック装備の時代が始まり、ホンダからやらないか、と誘われて始めた事業で世界第二位の地位まで上りつめます。ところがそのエアバックで事故が多発、自動車各社はリコールを迫られ、自動車業界では異例の部品メーカーが矢面に立たされます。

思いおこせば部品メーカーで私の記憶がある限りひどい思いをしたのがタイヤのファイアストン。同社がフォードに収めていたタイヤがバーストし事故率が高く多くの訴訟を抱えました。同社はブリヂストンが買収していましたが、苦労の連続でありました。その当時のブリヂストンの必死の対応に対してタカタはなんだか危機感があるのかどうかさっぱりわかりません。

その創業家の高田重久会長は一旦、辞意を表明し、第三者のブラッドを入れて会社再建に取り組むと表明していたと思いきや株主総会で「進退表明ではなかった」と辞意を否定し、いったい何が何だかさっぱりわからない状態にあります。高田家については重久氏のお母さま、暁子氏が女帝とされ、息子の重久氏もお母さまのいうことには逆らえないともいわれています。

個人的には暁子氏が理事長を務める公益法人タカタ財団を通じての名声を維持するためのような気がしてなりません。暁子氏の家系は格式が高く、父は凸版印刷の中興の祖、兄の娘は元ダイエーの中内家に嫁ぎ、兄嫁の妹は常陸宮華子様。実に華やかです。この財団の理事、評議員にも立派な方々の名前が連なっています。二代目社長の妻として、本人もタカタの役員まで務めたのですから一度掴んだ名声は放せないという気持ちはあるのでしょう。もちろん、創業家としての財産の管理もあるはずです。

創業家も運転の仕方を間違えると西武の堤氏のような末路をたどることになります。あるいは小説「華麗なる一族」のようなこともあるかもしれません。その名声が何代も続く立派なファミリーもありますが、それを維持するのも容易ではありません。だからこそ、創業家は出光のように経営の第一歩から身を引き、口だけを出すことにもなります。結果として他人からどういわれても創業家の血だけは守り通さねばならない、そんな保守性が生み出した様々な事件のような気もします。

個人的には2016年の流行語大賞のベスト20ぐらいには入れたいのが「ザ 創業家」であります。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月5日付より