世界的な金利消失の背景

2016年07月07日 11:32

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7月6日に日本の20年国債の利回りは初めてのマイナスとなった。10年国債の利回りもマイナス0.285%と過去最低を更新した。この金利の低下は日本だけの現象ではない。6日の米国債券市場で米10年債利回りは一時1.31%台をつけ過去最低を更新し、30年国債の利回りも過去最低を更新している。ドイツの10年債利回りはマイナス0.2%台をつけ、スイスの50年債利回りが初のマイナスとなった。

今回の世界的な金利低下の原因を、たとえば単純に英国のEU離脱による影響とするわけにはいかない。イングランド銀行のカーニー総裁が、英国の経済が大幅に減速する見通しと指摘したことや、英国の不動産ファンドの解約停止が相次いだことも不安感を強めたことは確かである。英国がEUを離脱するとなれば、英国で銀行業免許を取得すればEU全域で営業できる「シングルパスポート」が失われる可能性も指摘されている。大手金融機関が欧州の拠点をロンドンのシティからEU加盟国に移転する可能性が高まり、ロンドン周辺の不動産価格が大きく下落している。不動産だけでなく金融機関の拠点移転により、経済そのものへの影響も危惧される。しかし、これはあくまで富の移転であり、英国の問題であり、何かしらの世界的な危機が訪れるというわけではない。

それではこれほどまでに世界の金利が低下しているのはどうしてなのだろうか。日本のデフレが世界に蔓延したとの見方もあるかもしれないが、日本のデフレというよりも物価が上がりにくい、裏を返せばインフレが生じにくい状況が日米欧の先進国で生じていることは確かであるが、それ以上に歴史の流れが金利の消失を招いたとも言えるのである。

米国の10年債利回り、つまり長期金利の推移をみると2000年初めに8%台にあったが、2003年にかけて4%近くまで低下した。これはいわゆるITバブルの崩壊による影響が大きかった。しかし、中国をはじめとした新興国の経済成長を受けて世界経済も回復し、米長期金利は2006年あたりにかけて再び上昇し7%台を回復した。ところが2006年半ばに、それまで高騰を続けていたアメリカの住宅価格が下落に転じ、一部の住宅ローンが担保割れとなるなど、アメリカ住宅バブルが崩壊し、信用力の低い個人向けの住宅資金貸し付けであるサブプライム・ローンで焦げ付きが増加した。いわゆるサブプライム・ローン問題による危機が発生し、これが2008年9月のリーマン・ショックへと繋がり、世界的な金融経済危機が発生したまである。これを受けて米国の長期金利は再び低下基調となったのである。

そのショックが落ち着きかけたときに起きたのが、欧州の信用危機であり発端はギリシャであった。2010年1月に欧州委員会がギリシャの統計上の不備を指摘したことが報道され、ギリシャの財政状況の悪化が表面化した。相次ぐギリシャの格下げなどもありギリシャ国債は急落し、ユーロの屋台骨を揺るがすことになる。この危機はそもそも財政問題であるとともに、すでに財政政策は討ち尽くした面もあったため、対応の主軸が金融政策に移された。イングランド銀行、FRB、ECBそして日銀は非伝統的に金融政策に追い込まれた。これはすでに政策金利がゼロ近くとなったことによる政策であった。これらを受けて米長期金利の低下基調は続いた。

欧州の信用不安が後退しつつあるときに出てきたのがアベノミクスであり、それにより日銀は大胆な国債買入を主軸とした異次元緩和を踏み込む。デフレ懸念もあったことでECBも追随し、その結果マイナス金利政策に踏み込む。通貨高を避けるためECBの金融緩和に対抗すべくスイスの中央銀行なども積極的に対応した。そして日銀もまた今年1月にマイナス金利政策を導入し、日欧の長期金利がマイナス圏へと沈むことになる。

FRBは2015年12月に利上げを決定したものの、2016年に入っての原油安とその要因でもあった中国経済の減速に巻き込まれ、今回の英国のEU離脱もあり、追加緩和は見送らざるを得なくなった。日欧の長期金利がマイナス圏へと落ちるなか、信用度が高い上、金利がついている米国債の魅力が高まり、それが結果として米国の長期金利までもが1.3%台をつけて過去最低を更新するという結果となってしまったのである。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年7月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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