歴史に見るヘリコプターマネーのリスク

2016年07月14日 11:31

12日にバーナンキ前FRB議長が安倍首相と会談したことで、「ヘリコプターマネー」政策の導入が検討課題に浮上してきたとの報道があった(産経新聞)。この記事によると本田悦朗駐スイス大使が最近、首相に「今がヘリマネーに踏み切るチャンスだ」と進言したそうである。

ヘリマネとは何か、簡単に言ってしまうと日本の財政法で禁じられている日銀による国債の直接引き受けである。なぜ中央銀行による国債の直接引き受けが禁じられているのか。それは歴史に裏付けられたものである。日本では高橋財政による日銀の国債引き受けが財政法に繋がることになるのだが、ここではあらためてドイツにおける中央銀行の国債引き受けにより何か起きたのかを振り返ってみたい。

第一次世界大戦の敗戦により、ドイツは天文学的な賠償金を背負わされ、財政支出の切り札になったのが国債を大量発行しドイツの中央銀行であるライヒスバンクに買い取らせるという手法であった。その結果、ドイツは1923年にかけてハイパーインフレに見舞われた。

そのハイパーインフレはヒャルマル・シャハトが設立したドイツ・レンテン銀行によるレンテンマルクの発行などにより終息することになる。レンテンマルクとそれまでの通貨であるパピエルマルクの交換レートは「1対1兆」と決定された。大規模なデノミとともに政府が財政健全化を発表したことにより、いったんインフレは終息する。このインフレの収束はレンテンマルクの奇跡と呼ばれた。さらにシャハトの指導によるアウトバーンを初めとする大規模な公共事業などによって失業率は改善し、ドイツは1937年にほぼ完全雇用を達成したのである。

レンテンマルクは法定通貨ではなく不換紙幣であり金との交換はできなかった。しかし1924年8月30日には、レンテンマルクに、新法定通貨であるライヒスマルクが追加された。レンテンマルクとライヒスマルクの交換比率は1:1となった。

シャハトなどの支援もあり、1933年1月30日にはヒトラー内閣が成立。しかし、ヒトラーがシャハトを解任したあたりから再び状況が変わる。シャハトが帝国銀行の総裁を兼務していた際は国債の発行にも歯止めがかけられていたが、その歯止めがなくなった。ヒトラーは帝国銀行を国有化して大量の国債を引き受けさせ、戦争に向けて軍需産業への莫大な投資を行った。ただし、日本と同様に価格統制により戦時中にハイパーインフレそのものは発生しなかったが、戦後にハイパーインフレが発生することになる。敗戦によりヒトラー政権の発行したライヒスマルクは紙切れ同然となったのである。

戦後設立されたブンデスバンクは、インフレに対して極度に神経質となり、その要因となった中央銀行による国債引受に対して警戒感というか嫌悪感を強めたのは、この歴史が背景にある。ブンデスバンクは政府からの独立も保障され、ECB発足以前は世界でも最も高い独立性を有する中央銀行の一つであると評価されていた。

1993年に発効した「マーストリヒト条約」およびこれに基づく「欧州中央銀行法」により、当該国が中央銀行による対政府与信を禁止する規定を置くことが、単一通貨制度と欧州中央銀行への加盟条件の一つとなった。つまり、ドイツやフランスなどユーロ加盟国もマーストリヒト条約により、中央銀行による国債の直接引受を行うことは禁止されている。当然ながら欧州中央銀行(ECB)も国債の直接引受は禁じられている。

高橋財政による日銀の国債直接引き受けもドイツの事例も戦争が絡んでいる。いまはそんな時代ではない。だからヘリマネを1回ぐらい導入しても問題ないなどと言うことはできない。むしろ戦争という異常時でもないにも関わらず、異常時の対応をすべきと主張している人たちの方が何を考えているのかわからない。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年7月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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