相模原事件、日本の福祉現場における格差と病理

2016年07月28日 06:00

7月26日未明、ショッキングでやりきれない事件が起きた。神奈川県相模原市の障害者施設で元職員の襲撃によって19人の障害者が殺害された。そして、ハローワークのホームページより津久井やまゆり園が「時給905円で夜勤パート職員を募集(元のハロワHpは、現在では閲覧不可)」していたことが判明し、SNSなどで話題になっている。

テレビに映った施設の玄関部分を見る限り、曲線を組み合わせた屋根や天井まで届くガラス張りファサードを持つ、それなりにお金をかけたお洒落な建物のようである。

記者会見に登場した女性園長はスーツ姿も板についており、理路整然と「差別的言動があったので、自主的に退職してもらった(≒退職強要ではなく、解雇プロセスに問題はなかった)」と説明していた。ネットで園長の名前を検索すると別の福祉施設長や社会福祉法人幹部などを歴任しており、(おそらく)それなりの官庁からの天下り役人と思われた。

NHKでは「36年間勤務した元職員男性」がインタビューで「どうしてこういう感情を抱くようになったのか分からない」と答えていたが、顔の色ツヤも良く、撮影背景の自宅(?)も落ち着いた雰囲気を醸し出していた。(おそらく)昭和時代に採用された施設職員には公務員レベルの待遇が保証されており、「安定した雇用、年齢と共に昇給、年金ばっちり」という現在では垂涎の好待遇だったのだろう。

事件は到底許されることではないが、犯人は「差別的言動でサクッと施設をクビ」になったのは事実であり、元職員男性と同じような仕事なのに(おそらく)非正規の有期雇用で、(特に男性にとっては)結婚やマイホームを夢見ることができるようなレベルの賃金ではなかったのだろう。

「衣食足りて礼節を知る」と言われるように、「弱者に対するに思いやり」も自分の将来展望が見えてこそ持てるのではないか。天下り上司や公務員待遇の先輩に囲まれて、障がい者の言動に不満をもらすと「思いやりが足りない!」と叱責されるが、上司や先輩との待遇格差を解消する方策がないことに気付き…テロリスト的な過激思想に染まったのだろうか。

雇用環境が劣悪とされるファーストフード店内には、このような格差は見られない。昭和も平成も待遇に大差はない。アルバイト出身で店長になることは可能だし、店長職もアルバイト職員が妬む程の厚待遇ではない。夜間勤務などの辛い仕事では時給が上がるので、夜勤フリーターと昼間主婦パートが対立することもない。ゆえに、問題行動と言ってもSNSでバカ騒ぎするレベルの報道しかなく、不特定殺人のような過激な事件は見られない。

保育所や老人介護施設にも共通するのだが、日本の福祉には今なおそれなりの予算が計上されているが、まずは建物やら天下り管理職にそれなりの金が廻り、次にベテラン正規職員の福利厚生に廻り、現場で一番辛い仕事をしている人にお金が廻らないシステムだなあ…と、非正規労働者の一人として、しみじみ思わされた事件でもあった。

画像はJ-castホームページより

 

フリーランス麻酔科医

1966年生まれ。フリーランス麻酔科医。某国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、2012年から、「ドクターX~外科医・大門未知子~」「医師たちの恋愛事情」など医療ドラマの制作協力に携わる。近著に「フリーランス女医が教える 「名医」と「迷医」の見分け方」。

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筒井 冨美
フリーランス麻酔科医、医学博士

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