【映画評】海すずめ

2016年07月29日 06:00
海すずめ オリジナルサウンドトラック
小説家としてデビューしたものの、2冊目が書けずにスランプに陥った赤松雀は、故郷の愛媛県宇和島市に戻って、自転車で図書を運ぶ市立図書館自転車課で働くことになる。ある時、宇和島伊達400年祭の武者行列に使う、姫の着物の刺繍模様復元の資料として必要な御家伝来の本の行方をめぐる騒ぎが起きる。さらに自転車課の廃止の動きが浮上。雀は、資料となる本探しと、自転車課廃止を阻止するために奔走することになるが…。

 

宇和島伊達400年記念作品として製作された青春ドラマ「海すずめ」。いわゆるご当地映画で、愛媛県宇和島市の魅力を存分に伝えながら、何事にも中途半端だったヒロインが成長していくプロセスを描く物語だ。市立図書館の自転車課という設定が何よりユニーク。俗称、お届け図書館の自転車課の仕事は、本を届けることはもちろんだが、一人暮らしの高齢者の見守りや、地域、異世代の交流を目的としている。かつては宇和島市の図書館では自転車による移動図書館が実施されていたらしい(2002年に廃止)。ご当地映画の場合、地域の暮らしや歴史、祭りや行事を盛り込むという約束もこなしながら、あくまでもさわやかにストーリーを仕上げるのがお約束だ。その点、本作は自転車の疾走感と共に、美しい風景が流れていき、かなり効果的に感じられる。

自転車課のヒロインと同僚役の若手俳優たちの演技はぎこちないが、内藤剛志、吉行和子ら、ベテラン俳優たちがいい味を出してカバーしている。空襲で全焼した伊達図書館や、伊達400年祭の武者行列といった、興味深いエピソードが盛り込まれて、歴史好きにはおすすめだ。何でも愛媛県は自転車で町おこしを目指していて、それに対する意見はさまざまあるそう。それでも、クライマックスの見事な打ち掛けの美や、主人公が再び前を向き、彼女の行動が自転車課に新しい風を呼び込むことなど、いい意味での“ご都合主義”の後味は悪くない。自転車課。ほんとにあったらすてきなのに…と思う人も多いはずだ。

【55点】
(原題「海すずめ」)
(日本/大森研一監督/武田梨奈、小林豊、内藤剛志、他)
(さわやか度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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