バロンズ:米大統領選やGDPをめぐる皮肉

2016年08月01日 06:00

ホワイトハウス

バロンズ誌、今週はモルガン・スタンレー インベストメント・マネジメントのルチール・シャルマ 新興市場/グローバルマクロ担当ディレクターの見通しをカバーに掲げる。シャルマ氏は42歳でインドの経済紙エコノミック・タイムズに17歳から執筆し、今ではモルガン・スタンレーに20年にわたり籍を置く。そのシャルマ氏は世界の傾向として1つに日本をはじめ西欧、台湾、韓国などで確認できる「過疎化(depopulation)」を挙げ、労働力が1%減少する度に生産活動が1%減少すると分析する。さらに、「非グローバリゼーション(deglobalization)」を指摘。2008年以降、保護主義の台頭もあって世界の貿易は成長率に届かず、国際間の資本のフローも落ち込みつつあるとの考えを示す。国別では中国とロシアに慎重で、米国をはじめドイツ、インドには楽観寄りな立場を採る。詳細は、本誌をご確認下さい。

当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは米大統領候補から国内総生産(GDP)、金融政策をめぐる”皮肉”を取り上げる。抄訳は、以下の通り。


トランプの皮肉、ヒラリーの皮肉 〜Trump’s Sarcasm, Hillary’s Cynicism.

共和党のドナルド・トランプ候補は、ロシア政府に対し民主党のヒラリー・クリントン候補が候補が失ったとされる3万件ものeメールをロシア政府に探し出すよう呼びかけた。後に「皮肉だよ(sarcastic)」と応じたが、それが本当ならば同候補の発言やツイッターの見解も同じことなのだろう。

クリントン候補は28日、民主党大会の指名受諾演説でウォールストリートに相応の負担をさせると明言した。興味深いことに、同候補はウォールストリートの会合で演説を行うだけで数十万ドルを捻り出してきた。

クリントン候補といい、メラニア夫人といい純白の衣装が目立った党大会でした。
clinton
(出所:Twitter

民主党の党大会では、2009年にオバマ政権が発足してから雇用を中心にいかに動向が改善したかについて称賛した。確かに、労働市場は上向いた。ただし米国の成長率は今年4〜6月期に前期比年率1.2%増と、0.8%増、0.9%増へ下方修正された1〜3月期や2015年10〜12月期を上回ったに過ぎない。

とはいえリチャード・ワグナーの音楽に対し「耳で聴くより素晴らしい」と皮肉を交えて表現したマーク・トウェインの言葉が思い出される通り、国内総生産(GDP)の最終需要は2.4%増でエコノミスト予想に近い数字に終わり、過去2期分の倍近くだった。今回のGDPの鈍化は、在庫投資の下押しが問題だったことが分かる。

GDPのうち個人消費は4.2%増を叩き上げ、アメリカの消費者は米経済のヒーローだ。ただし、自動車大手フォードの決算とは矛盾する。同社の売上は市場予想超えだったものの、インセンティブに圧迫され1株当たり利益は52セントと市場予想を8セントも下回った。

金利が過去最低を示すなかでも、住宅投資や非住宅投資は落ち込んだ。一方で雇用コスト指数は4〜6月期に前年同期比2.3%上昇し、1〜3月期の1.9%から加速。コアPCEデフレーターは前期比年率1.7%上昇した。成長の鈍化に物価上昇圧力が加わるなかで、米国景気循環調査研究所(ECRI、米景気後退に関する決定を行う機関)が指摘する”軽度のスタグフレーション(Stagflation Lite)”を招きかねない

7月26〜27日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、大方の予想通り金利を据え置くとともに「短期的な経済見通しリスクが後退した」との文言を追加した。労働市場の改善に触れることも忘れない。9月20〜21日開催のFOMCでの追加利上げ余地を残したが、米4〜6月期GDP速報値を受けてその可能性は低下した。米7月雇用統計・非農業部門就労者数を確認する必要があるものの市場予想では17.5万人増と、6月の28.7万人増や5月の1.1万人増と異なり元のレンジに回帰する見通しだ。米7月雇用統計後は、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が8月26日に行うジャクソン・ホール会合で何か金融政策のヒントを与えるか注目される。

10月と言えば、マーク・トウェインが株式市場にとって最も危険な月と評したことで知られる。次いで7月、1月、9月、4月、11月、5月、3月、6月、12月、8月、2月という順だ。ベスポーク・インベストメントによると、過去20年間においてむしろ8月こそ平均1.3%安と、最も弱いリターンを表してきた。また過去50年間では、8月は12ヵ月中で下落する傾向が高い4ヵ月の1つ。平均では0.28%安と、最悪である9月の0.88%に次ぐ水準となる。

米株が原油先物と乖離して推移してきた点も、意識されよう。原油先物は、6月の高値である52ドルから20%近く下落した。シティグループのリサーチによれば、同じような事態が発生したのは「2015年8月と2015年12月」。乖離が生じた後、米株が下方向を突き進んだのは周知の通りである。


今回のアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートでは、sarcasticとcynicismの違いが気になりましたよね?前者は相手を攻撃する意味で使う”皮肉”であり、辛辣な”口撃”とも言えるでしょう。その意味で、トランプ候補の発言は納得です。後者は同じ”皮肉”でも、人間が自己中心的で不正直であるという前提をもった姿勢で、”冷笑”など人を嘲るような意味を含みます。クリントン候補に厳しい言葉を投げかけたとも言えるでしょう。余談ですが同じ”皮肉”でもironicは人を傷つけずジョークとしても使われ、最も害がない表現です。

以上のことで分かるように共和党並びに民主党の米大統領候補の言動に疑問を呈しつつ、成長率をはじめ金融政策など悩ましい現状を伝えました。特にGDPは4〜6月期は芳しくない内容で、過去分も下方修正されています。もっとも、BNPパリバの分析の通り在庫投資をはじめ住宅投資、政府支出の改善が期待できますよね。個人消費が2%台へ鈍化したとしても、2%成長を達成する可能性を残します。ただし、FOMCに追加利上げの正当性を与えるかは不透明。米雇用統計が仮に鈍化を示せば、Fedが二の足を踏むこと必至です。

また、個人的にはグラス・スティーガル法をめぐる議論次第で金融政策に影響を及ぼす可能性も否定できないと考えます。こちらでご説明したように、共和党と民主党で扱い自体は異なり実際に復活するかは未知数です。ただし、保護主義とポピュリズムの台頭でウォールストリートへの風当たりが強くなった場合、貸出姿勢に変化が出てくるリスクも想定され景気鈍化局面では特に気掛かり。9月に利上げを行えば10月に相場が荒れやすいだけに米株急落を招く事態も考えられ、米大統領選に影響を与えかねません。筆者は引き続き、12月利上げを予想しています。

(カバー写真:angela n./Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年7月31日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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