石油は弱気市場の領域に:注視すべき5つのポイント

FTが同じ内容の記事を三日間、毎日ブラッシュアップしていた。まとまった時間が取れなかったため、弊ブログ書き終えられずにいた。ここでは水、木2日分記事のメモに加え、29日(金)の記事も参考にしながら、要点を筆者の解説を交えて紹介してみよう。29日のFT原文は “Oil in bear market territory: 5 things to watch” となっている。

ブレント原油もWTI原油も、6月初旬のピークより20%以上下落し、テクニカル上の定義である「弱気市場 (bear market)」になっており、投資家が重要視している「200日平均移動線」を下回ってしまっているため、さらなる「売り」を招く可能性がある。

この下落がこのまま継続するのか、あるいは回復途上の一時的な落ち込みなのか、将来動向を占う重要な5つのポイントは、①需給バランス、②特にガソリンの動向、③洋上在庫、④稼働リグ数、⑤ヘッジファンドの動向、である、とFTはいう。

1. 需給バランス:
2014年の100ドル台から2016年初めの30ドル割れを記録したこの2年間の価格動向は、リバランス(需要と供給が均衡に向かうこと)へのプロセスと見られていた。シェールオイルなど高コスト原油の減産、低油価に刺激された需要の回復、それとメジャーなどの資本投資減少による将来の供給能力不安などがあって、約200万B/Dといわれていた供給過剰が徐々に解消されている、すなわちリバランスが進んでいる、と判断されていたのだ。だがここにきて、石油製品の需要の伸びが鈍化しており、リバランスへの道のりはスムースではないとみられるようになった。リバランスがさらに持続的に進むためには、原油のみならず石油製品の在庫調整が必要だ。

2. ガソリン:
最近の原油価格下落の主要要因はガソリン市況。ガソリン需要の伸びの鈍化が顕著で、在庫が予想以上に増えている。このような石油製品の在庫増が原油需要量を減少させると市場は見ているのだ。米EIA(エネルギー情報局)も、今後のガソリン需要の伸び予想を22万B/D(+2.5%)から13万B/D (+1.5%)に下方修正している。これに対し「1.5%も増えない、せいぜい1.1%の伸びにとどまる、だから他に供給阻害要因が発生しなければ、ブレントは9月半ばから下旬には40ドル以下になる、いや37ドルまで下がっても驚いてはいけない」というオイル・エコノミストもいる。

3. 洋上在庫:
タンカーを利用した洋上在庫は、リーマンショック後の2009年のファイナンシャル危機のときには大々的に行われた。今回の下落開始時、2015年の第一四半期にもみられた。現在の目先価格と将来価格の値差では利ざやは稼げないので、これから行うのは、やらざるを得ない必要性に駆られた場合だ。なお、これらの洋上在庫は、価格が上昇していた6月初旬以来6,000万バレル減少している、と指摘するコンサルタントもいる。

4. 稼働リグ数:
リグの稼働数の変動は、2007年の500万B/Dから2015年の940万B/Dまで増加した米国の原油生産が将来どうなりそうかを予測する重要なガイドラインだ。2014年10月には1600基あった米国陸上の稼働リグ数は、今年5月には316基まで下落した。だが、先週は371基にまで増加している。もしこの増加傾向が続くなら、原油生産の減少傾向に歯止めがかかるだろう。米EIAは、9月に810万B/Dで底を打ち、11月、12月には830万B/Dに増加するとみている。

5. ヘッジファンドのポジション:
ヘッジファンドはが、今年の1月から5月までは価格上昇に賭けており、5月初めにはブレント原油で、オプションを含めて4.3億バレル相当のロング(買い持ち)をしていた。だが、いまは利食いするか下げに賭け、ロングは3億バレル以下に減少している。WTIも同様で、4月以来1億バレル以上減少している。この現象は「広範なセンチメントの変化のあらわれ」だと指摘し、投機筋は弱気に転じた、基礎的要因(ファンダメンタルズ)も価格下落の要因の一つだ、と指摘するアナリストもいる。

現在の最大の懸念は需要の伸びだろう。2016年通年の需要増を、OPEC7月月報は120万B/D、IEA7月月報は140万B/Dとみていた。これらの需要予測が減少するかどうかが重要なポイントだろうな。
読者のみなさんも、上記の5つのポイントを気にしていてくださいね。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年7月31日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。