【映画評】ルドルフとイッパイアッテナ

ルドルフとイッパイアッテナ (講談社文庫)
岐阜で、大好きな飼い主リエちゃんと幸せに暮らしていた小さな黒猫ルドルフは、ひょんなことから長距離トラックに紛れ込んでしまい、大都会・東京にやってくる。そこで出会ったのは、身体が大きいノラ猫のボスのイッパイアッテナだった。自分がもう故郷に戻れないと知ったルドルフは、イッパイアッテナと共に行動し、ノラ猫として生きていくことを決心するが…。

斉藤洋の名作児童文学を映画化したアニメーション「ルドルフとイッパイアッテナ」。のんびりとした田舎から大都会にやってきた小さな黒猫が、ノラ猫のボスと出会い、友情を深め成長していく物語だ。飼い猫がノラ猫として生きていくことへの挑戦、人間の文字を理解する動物たち、彼らの知恵と友情、そして絆が分かりやすく描かれる。イッパイアッテナという少し変わった名前は、あちこちでいろいろな名前で呼ばれているノラ猫のボスに、ルドルフが名前を尋ねると「俺の名前は、いっぱいあってな」と答えたことを名前と勘違いしてしまうことに由来している。イッパイアッテナは、文字が読めて、人間の心理も理解するなど、生きるために驚くべき知恵を身に着けているのだが、何よりも感心するのは、ノラ猫であろうが、飼い猫であろうが、誇り高く生きる術を知っていることだ。落ち込んだルドルフを「絶望は愚か者のすることだ」と叱咤し、心無い人間が言う「黒猫は不吉」という言葉には「そんなことを言うやつは、教養がないだけ」とルドルフをさりげなく励ます。イッパイアッテナの名言は人間社会でもしっかり通用するものばかりだ。

ルドルフを何とかして故郷に帰してやろうと、街の猫たちが苦心して準備を整えるが、そこには意外な展開が。再びイッパイアッテナに出会ったルドルフがこらえきれずに涙を流す場面は、グッときた。井上真央、鈴木亮平らが声優を務めるが、最初は彼らの顔がチラつくものの、次第に役柄になじんでいくのは演技力のたまものだろう。世の中は空前の猫ブーム。しかし、中には、猫好き、動物好きの人間ばかりではないはずで、ルドルフの冒険は少々うまくいきすぎでは?と思わなくもない。あくまでも子どもたちも楽しめるわかりやすいファミリー映画として楽しみたい。

【55点】
(原題「ルドルフとイッパイアッテナ」)
(日本/湯山邦彦、榊原幹典監督/(声)井上真央、鈴木亮平、水樹奈々、他)
(学習能力度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年8月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。