イチローとオリンピック日本人選手団

岡本 裕明

イチロー選手のMLB通算3000本安打にまずはご苦労様と申し上げたいと思います。歴史あるアメリカという敵地でアメリカ人のプレーヤーですら30人しかなしえなかった記録達成は海外に居住する私からすればいかにそのハードルが高いかよくわかりますし、同じ海外で仕事をする人間として憧憬すら感じます。

今から10数年前に私はある日本の重鎮の方にこんなことを言われたことがあります。「君の仕事は日本のレベルなら当たり前だけど海外で達成しているから立派である」と。つまり私は多くの皆様と比べて大したことをしていないのですが、ただその舞台が海外であるが故にハードルが高くなかなか達成でき得ないそうです。

かつて日本のプロゴルファーは日本で勝っても世界で勝てないといわれました。メンタルなスポーツ、そして4日間という長丁場故にその独特の雰囲気に飲まれるのでしょうか?ゴルフでは言葉による妨害は少ないかもしれませんが、それがない故のプレッシャーは相当あるでしょう。

ヤンキーズに在籍していた松井秀喜選手は確か、その独特な雰囲気に苦労したと述べていた記憶があります。野球の場合には観客の期待通りにならなければ翌朝の新聞どころか、その場で観客からのヤジで罵倒されることもあるでしょう。ブーイングというのもあります。意志をはっきり表示するアメリカならではの重圧がそこにあるといえます。

それをはねのけるにはある意味、自分の世界を作り上げ、だれが何と言おうとも動じないぐらいのどんと構えた精神力が重要であります。イチロー選手にはそれがあります。私も24年も海外で仕事をしているので雰囲気に飲まれたりせず、海外でのやり方を客観的に判断し、正しいと思うことを貫き通しています。この意志の強さが海外という舞台で結果を残す大きな秘訣であると思います。

リオのオリンピック、序盤の流れはイマイチでしたが少しずつエンジンがかかってきたようです。一部にはメダルラッシュという報道もありますが、私にしてみればメダルの色がまだ違うと思っています。柔道は銅の山にようやく金が出ました。それでもまだメダルに手が届けばよい方でサッカー、バレーボール、体操の内村選手、卓球の石川選手、フェンシングの大田選手らはむしろチームジャパンを引っ張っていくべき存在でありますが、序盤は期待した成績を残せない状況にありました。

ソチオリンピックの際、高梨沙羅選手は金メダル確実と言われながらその期待に応えることができませんでした。浅田真央選手も大舞台で苦戦を続けてきました。実力を持った選手がオリンピックになると力を発揮できないのはなぜなのでしょうか?

私は選手が国際モードに入らないまま大会に臨み、場の雰囲気に飲まれやすくなるのではないかと思います。日本選手にはメディアやSNSを通じて応援と期待の声がこれでもか、というぐらい入ってきます。現地入りしてもコーチや選手団は日本語で日本人とべったり過ごすことが多いかと思います。

その間、自分のムードを高め、試合に望みますが、勝負のステージに立ったその瞬間、海外の大舞台での独特の緊張感に飲まれやすくなってはいないでしょうか?日本選手の特徴はうまくいけばムードがプラスに回転し120%のチカラを発揮できるのですが、飲まれると8割のチカラも出せなくなってしまう傾向が以前からありました。

今回はまだあまりよいムードになっていません。本来であれば東京オリンピックに繋げるために過去最高レベルの結果を残して4年間の鍛錬のムードを作り上げたいところであります。

私が一つ思うことは選手からスマホを取り上げてみたらどうでしょうか?外部とのやり取りを遮断し、自己を見つめ、オリンピックのステージに精神集中し磨きをかけるアイディアです。子供じゃないのだからスマホを取り上げる発想はばかばかしいと思うかもしれませんが、その依存症こそが常に他人との比較論に繋がりやすい気がします。

イチロー選手は自己との戦いであそこまで上り詰めました。自分のコンディションを知り、試合の際に自分の能力を100%の形にすることを心がけてきました。だからこそ自分のスタイルを崩さないことで力を発揮できるわけです。ポケモンGOで50万請求されて精神の乱れが結果につながったと書かれた内村選手には雑念があったのでしょうか?選手団長はもっと士気を高める努力をし、目標の金14個はぜひとも達成してもらいたいと願っております。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 8月9日付より