米大統領候補にみる、ケインジアンの復活

2016年08月14日 06:00

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バロンズ誌、今週のカバーは「台頭するヒラリー(Hillary Rising)」。民主党大会後、ヒラリー候補が共和党のトランプ候補による数々の失言を土台に支持率を上昇させ、次期大統領へ近づきつつある。そのクリントン候補が勝利すれば、不透明性の払拭もあって米株が上昇する公算が大きい。セクター別ではトランプ候補のような保護主義へ傾倒する可能性が縮小するため、多国籍企業が注目されよう。また病院銘柄、マネジドケア(在宅治療、予防的な薬品投与などのシステム)、再生エネルギー関連、防衛関連に上昇余地が出てきそうだ。個別銘柄をめぐっては、本誌をご覧下さい。

なおフィーチャーと題したコラムでは、トランプ候補が勝利した時の注目セクターを挙げる。クリントン候補のシナリオとは異なり石油・掘削関連のほか、バイオテクノロジー株、ドッド・フランク法の廃止を目指すとみられるため金融株、防衛関連などが上昇しそうだ。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは、ケインジアンの復活に注目する。抄訳は、以下の通り。


クリントンとトランプ、共にケインズ主義を採用—Clinton and Trump Both Embrace Keynesianism

「我々皆が、ケインジアンだ」とは、ニクソン米大統領が1971年に新経済政策を発表した当時に口にした言葉だ。あれから45年を経て、民主党と共和党の候補者が財政拡大並びにインフラ投資計画を立てている。共和党の伝統的路線とは一線を画すが、リベラル派のノーベル経済学賞を受賞したクルーグマン教授が指摘する通り、例のない低金利環境を踏まえれ妥当なのだろう。

ニクソン元米大統領と言えば、物価並びに賃金の上昇凍結や金とドルの交換停止を表明。特に後者はブレトン・ウッズ体制の崩壊を招き為替相場の自由化を促したニクソン・ショックとして、世に知られるところだ。トランプ候補はというと11日、CNBCのインタビューに登場し「仮に金利が上昇すれば、借入ができなくなる」と発言。さらに「バランスシートを潰してしまう」と懸念を示した。

もちろん金利が上昇すれば財政赤字に響き、金利支払い負担を増やしてしまう。バランスシートの観点で言うなら国債という借入に対し、例えば長持ちし生産的な資産を保有すれば良い。ニューディール政策でのフーバー・ダムやニューヨーク市に架かる橋が良い例だ。クリントン候補が提唱する”ユニバーサル・ブロードバンド・アクセス”は、1930年代の電化プログラムを彷彿とさせる。

コストはクルーグマン教授が米10年物インフレ連動債(TIPS)の利回りが0.09%を例に挙げるように、小さくはないかもしれない。そもそも、TIPSは消費者物価指数(CPI)を用いるだけに、原油先物の反発で上昇する余地がある。とはいえ米10年債利回りは1.5%、米30年債利回りでも2.25%程度であり、支出する環境としては健全に見える。

米10年物インフレ連動債、利回りは再びマイナスに差し掛かる。
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(出所:Fred)

借入と支出をめぐる政治的な対立もあって米国や欧州、日本では長年、金融政策こそ経済を支える手段だった。量的緩和策こそ、その一つと言える。ただし金融政策と財政政策との織り交ぜたものに変化するならば、ポートフォリオも変えていかねばならない

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)によると、かつての”緊縮財政/金融緩和策による過剰流動相場”で所得格差を招き、ウォールストリートが潤う半面、メインストリートが厳しい局面に入り労働参加率は1977年以来の水準まで落ち込んだ。こうした流れを受け、BAMLいわく有権者は「賃金デフレ、失業率、移民、格差を是正する政策に傾きつつある」。有権者の意識変化に伴う政策シフトを受け、グロース銘柄からバリュー銘柄へ、債券から商品先物へ、米国株から海外銘柄へ、ドルから金へ、金融資産から不動産へ、ウォールストリートからメインストリートへ資金が流れていくのだろう。投資家は、こうした変化に留意すべきだ。

——日本ではお盆休み、米国でも夏休みの真っ盛りとあって商いが薄いせいもあり、米株は11日にダウをはじめS&P500、ナスダックがそろって同じ日に最高値を更新しました。クリントン候補がまだファースト・レディだった1999年以来の快挙となります。米株高と足並みをそろえるようにクリントン候補のリードは開いていったのは、偶然なのでしょうか。

青がクリントン候補で47.8%、赤がトランプ候補で41.0%。
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(出所:Realclearpolitics)

クリントン候補にとって、米経済に不穏な影がよぎればFedがサポートしてくれる可能性が大きい点も追い風要因米7月雇用統計は好調そのもので平均時給の前年比伸び率が2009年以来で最高を保ったにも関わらず、米7月小売売上高で明らかになったように消費は力強さを維持できませんでした。米6月貿易収支でも赤字拡大を通じ純輸出が再び成長を押し下げる余地が出てきたほか、企業の設備投資にも不安を抱える状況。Fedが9月利上げに踏み切る公算は小さく、米株急落や大規模テロなどで全米を震撼させない限りトランプ候補に分が悪い情勢が続きます。

(カバー写真:Thomas Hawk/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年8月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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