米8月フィリー、分岐点回復も雇用は09年7月以来の低水準

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米8月フィラデルフィア連銀製造業景況指数、米新規失業保険申請件数、米7月景気先行指数をおさらいしていきます。

米8月フィラデルフィア連銀製造業景況指数(フィリー)は2となり、市場予想に並んだ。分岐点を割り込み6ヵ月ぶり低水準だった前月のマイナス2.9から改善している。ただ、約1年ぶりの高水準を遂げた3月でピークアウトした感は否めない。

主要な項目の内訳をみると、仕入れ価格が急上昇した程度でヘッドラインが示すより悪材料が目立つ。新規受注は再び分岐点を割り込み、雇用に至っては分岐点を維持しただけでなく2009年7月以来の水準へ沈んだ。詳細は、以下の通り。

・新規受注 マイナス7.2、年初来で最低<前月は11.8、6ヵ月平均は2.6
・出荷 8.4、2ヵ月連続で分岐点に乗せ6ヵ月ぶり高水準>前月は6.3、6ヵ月平均は3.9
・在庫 マイナス9.2、14ヵ月連続で分岐点割れ<前月はマイナス4.3、6ヵ月平均はマイナス9.9

・雇用 マイナス20.0、2009年7月以来の低水準で7ヵ月連続の分岐点割れ<前月はマイナス1.6、6ヵ月平均はマイナス9.2
・週当たり平均労働時間 マイナス11.5、以来の低水準で5ヵ月連続の分岐点割れ<前月はマイナス3.6、6ヵ月平均はマイナス9.0

・受注残 マイナス15.0、年初来で最低<前月は1.9と2015年5月以来の分岐点乗せ、6ヵ月平均はマイナス7.1
・入荷時間 1.3、4ヵ月ぶりの分岐点乗せ>前月はマイナス8.3、6ヵ月平均はマイナス9.2

・仕入れ価格 19.7、2014年10月以来の高水準で5ヵ月連続の分岐点乗せ>前月は9.9、6月平均は13.4
・販売価格 7.1、3ヵ月ぶりの高水準で6ヵ月連続で分岐点乗せ>前月は0.3、6ヵ月平均は6.2

6ヵ月先見通し指数は45.8と、前月の33.7から上昇し2015年1月以来の高水準を達成した。項目別では、全般的に明るさを増している。新規受注(44.9>前月は29.2)をはじめ出荷(51.0>前月は29.2)、平均労働時間(19.9>前月は8.4)が急伸。設備投資(19.2>前月は15.1)や仕入れ価格(29.1>前月は26.4)も上昇、雇用も(12.9>前月は12.8)と、若干ながら上向いた。一方で、在庫(マイナス7.3>前月はマイナス3.1)が分岐点割れへ戻し、販売価格(13.9<前月は24.1)も伸びを狭めた。

現況(オレンジ)は分岐点を回復、見通し(グレー)は急伸。

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(出所:Federal Reserve Bank Of Philadelphia)

――米8月フィリーは分岐点を回復したとはいえ、新規受注や雇用が下げ幅を広げ額面通り結果を好感しづらい内容でした。米7月雇用統計では製造業の雇用が2ヵ月連続で増加したものの、腰折れするリスクが浮上しています。半面、見通し指数が2015年1月以来の高水準だった点は、心強い。原油先物の上昇も、一因でしょう。

▽米新規失業保険申請件数、継続需給は数が2週連続で増加

米新規失業保険申請件数は8月13日週に26.2万件と、市場予想の26.5万件を下回った。前週の26.6万件からも減少し、1ヵ月ぶりの低水準を示す。米労働省は特殊要因を指摘しなかったが、30万件割れは76週連続で1973年以来の最長とのコメントを寄せた。4週平均は26万5250件と前週の25万2750件(修正値)から増加し、6月25日週以来の水準へ増えた。1973年以来で最低を示した4月23日週の25万6000件が遠のきつつある。

8月6日週までの継続受給者数は217.5万人と、前週の216.0万人(修正値)から増加した。2週連続で増加している。被保険者に占める失業者の割合は4週連続で1.6%となり、過去最低の1.5%を上回った水準を保つ。

継続受給者数は低水準をキープしつつ、じわり増加。

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(作成:My Big Apple NY)

8月6日週の州別動向は、以下の通り。

(増加が顕著だった州)
・ペンシルベニア 2359人増
・プエルトリコ 1621人増
・テキサス 1196人増
・オハイオ 952人増
・ニューヨーク 881人

(減少が顕著だった州)
・ミシガン 2186人減(前週の1864人減と合わせ2週連続で減少)
・ケンタッキー 536人減
・カンザス 283人減(前週の450人増から反転)
・アイオワ 280人減
・バージニア 124人減(前週の292人増から反転)

▽米7月景気先行指数、2ヵ月連続で上昇

米7月景気先行指数は前月比0.4%上昇の124.3となり、市場予想並びに前月の0.3%を超えた。2ヵ月連続で上昇、4ヵ月ぶりの伸びに。一致指数も0.4%上昇の113.9と、前月の0.2%より強い。遅行指数は0.1%上昇の121.8と、前月の低下を打ち消した。

発表元であるカンファレンス・ボードのエコノミスト、アタマン・オジルディリム氏は、結果を受け「ゆるやかな成長過程にあることを確認した」と振り返る。足元の製造業活動や建設活動が続き、消費者信頼感が悪化しなければ「成長が従来予想より上振れする余地がある」とも指摘し、楽観的な姿勢を強めた。

――米新規失業保険申請件数は低水準を維持する半面、継続受給者数の増加が気掛かりです。米7月雇用統計で長期失業率が2ヵ月連続で上昇した動きと、整合的。こちらで指摘させて頂いたように非労働力人口のうち労働意欲を持つ割合が高い事情を踏まえると、労働市場へのカムバックが進めば失業率の低下に歯止めが掛かりそうです。

(カバー写真:Dominic Lacivita/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年8月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。