独「トルコはイスラム過激派の拠点」

2カ国間や多国間の外交関係では本音はあまり歓迎されないし、事実一辺倒の姿勢も喜ばれない。ましてや、相手の痛点に直接タッチする外交は関係をこじらせることが多い。ドイツの対トルコ関係を見ているとそのことを改めて感じる。

トーマス・デメジエール独内相は、内務省が作成したトルコに関する非公開文書(ここでは「トルコ報告書」と呼ぶ)の中で、「トルコは2011年以来、中東のイスラム過激派にとって中心的な活動拠点(Aktionsplattform)の役割を果たしている」と記述されている点について、「現実に対する簡潔な表現だ」と説明し、記述内容がドイツ政府の考え方と一致していることを認めた。

「トルコ報告書」は連邦議会の野党「左翼党」のSevim Dagdelen議員の問い合わせに内務省が返答した文書で、連邦情報局(BND)の機密情報に基づく内容も含まれていたので非公開とされたが、同国公営放送ARDが16日に報じた。

「トルコ報告書」の中でも、「トルコのエルドアン大統領とその与党『公正発展党』(AKP)が中東のイスラム過激組織を支援している。同国が支援するイスラム過激派の中にはシリアの武装野党勢力ばかりか、エジプトの『ムスリム同胞団』やパレスチナのイスラム根本組織『ハマス』も含まれている」という個所が問題視されている。「ハマス」は欧州連合(EU)がテロ組織と指定しているグループだ。この個所は独連邦情報局(BND)のコンフィデンシャル情報に基づくものだ。

「トルコ報告書」の内容が報じられると、予想されたことだが、トルコ外務省は17日、「ドイツ内務省の報告書内容はエルドアン大統領を中心としたわが国を弱体化しようとする歪められたメンタリティ―が根底にある」と激しく批判している。

問題は、「トルコ報告書」を作成した内務省と、同報告書に関与しなかった外務省との間で不協和音が流れていることだ。具体的には、トルコのクーデター未遂事件後(7月15日)、緊迫するドイツとトルコ関係の正常化に腐心する外務省側の努力が「トルコ報告書」の内容が報じられたことで水泡に帰してしまう懸念が出てきたからだ。トルコは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であり、独連邦軍もトルコ内に駐留している。内務省は報告書作成のために外務省と全く打ち合わせをしなかったという。

独外務省だけではない。メルケル首相は「トルコ報告書」の内容には納得していないという。なぜならば、難民・移民問題の解決のためにトルコ側との連携を強化している中で、アンカラとの関係を険悪化させることは決して得策ではないからだ。クーデター未遂後のエルドアン大統領の強権政策、クーデター派粛清に対して独政府はこれまで直接の批判は控えてきたほどだ。

それでBNDの機密情報が外務省、連邦首相府を素通りしてどうして公表されたのだろうか。メルケル政府内でトルコとの関係を破壊したいと願っている者がいるのではないか、といった憶測すら流れている。

シュテフェン・ザイバート政府報道官は、「トルコはイスラム過激テロ組織『イスラム国』(IS)との戦いでパートナーだ。また、同国とは難民問題でEUとの連携を進めている。その国(トルコ)を疑問視する理由を見いだせない」と説明している。

看過できない事実は、トルコのテロ対策は欧米諸国とは明らかに異なるという現実だ。例えば、シリアのクルド人民兵組織とアラブ系反政府勢力部隊の合同部隊「シリア民主軍」(SDF)が8月に入り、ISがこれまで占領してきたシリア北西部のマンビジ市(Manbidsch)を奪い返したが、トルコではこのニュースは歓迎されていない。なぜならば、解放軍がクルド系(クルド人民防衛隊=YPG)に占められているからだ。YPGはトルコのPKK(クルド労働者党)の姉妹組織だ。そしてPKKは米国亡命中のイスラム指導者ギュレン師とともにトルコの宿敵と受け取られているからだ。

トルコは対IS国際協調に積極的に貢献する姿勢を示す一方、ISと戦うクルド系組織を密かに攻撃していることは周知の事実だ。

独内務省がまとめた「トルコ報告書」の内容は新しくはない、欧米諸国の共同認識であり、懸念事項だ。トルコ政府がドイツの報告書に激怒したということは、報告書の内容が事実だったからだ。間違った情報に誰も真剣に怒ったりしない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年8月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。