【映画評】ニュースの真相

2004年のアメリカでは、ジョージ・W・ブッシュ大統領が再選を目指していた。米国最大のネットワーク、CBSの敏腕プロデューサーのメアリー・メイプスは、ベテランの名司会者ダン・ラザーと共に、ブッシュの軍歴詐欺疑惑のスクープを報道し、たちまち大反響を巻き起こす。だが、後に証拠は偽造されたものだと保守派のブロガーが指摘したことから、メアリーやダンら番組スタッフは、世間から猛烈なバッシングを受けることになる…。

2004年、アメリカで一大センセーションを巻き起こした、ブッシュ大統領の軍歴詐欺疑惑をめぐる「ラザーゲート事件」のスクープと、その報道の裏側を描く社会派ドラマ「ニュースの真相」。CBSの看板番組のプロデューサーだったメアリー・メイプスの自伝ベースにしているが、真相は今も闇の中だ。日本ではあまり大きく報道されなかった「ラザーゲート事件」は“21世紀最大のメディア不祥事”と言われた実在の事件。実際、アメリカではこの報道は捏造ということで定着しているらしく、映画化は、いまさら感満載だそうだ。だが、メイプスサイドにたって描いた本作を見ると、大手メディアと政権の結託や利益至上主義のテレビ報道の実態が浮かび上がってくる。隠ぺいされた不祥事を暴くというと、オスカーを取った「スポットライト」が思い浮かぶが、じっくりと取材をし裏をとる時間が許された新聞と違い、本作のTV番組は、常に時間に追われ、大切な部分はCM放送のために容赦なくカット。あげくのはてに証拠の捏造ばかりが話題になって、肝心のブッシュの軍歴詐欺疑惑の話はいつのまにかうやむやになってしまうという皮肉な展開だ。

ハリウッド屈指の名女優ケイト・ブランシェットがメアリーを熱演するが、ダン役のロバート・レッドフォード(あぁ、こんなに老けて…)もいい味を出している。メアリーが事件を追う背景には、家族の問題があったり、共倒れに近いダンは戦友のようでありながら、擬似父娘的な関係。社会派映画ながら、家族ドラマとしての味わいも加味されている。アメリカのジャーナリズムの苦い失敗を描いた映画だが、ラストに一筋の希望の光がみえたのが救いだった。
【65点】
(原題「TRUTH」)
(米・豪/ジェームズ・ヴァンダービルト監督/ケイト・ブランシェット、ロバート・レッドフォード、エリザベス・モス、他)
(苦み度:★★★★☆)


編集部より:この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年8月23日の記事を転載させていただきました(動画はアゴラ編集部で公式YouTubeよりリンク)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。