【日本テレビHD】テレビ局からの脱皮を図るM&A戦略

2016年08月25日 06:00

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日本初の民間放送テレビ局

日本テレビホールディングス<9404>は、当時読売新聞社長であった正力松太郎氏により1952年10月15日に設立され、翌53年8月28日に放送を開始した日本初の民間放送テレビ局である。NHKと民放各社の中で、省庁ではなく電波監理委員会によって予備免許が与えられた唯一のテレビ局でもあり、現在、NNN(Nippon News Network)、NNS(Nippon television Network System)により、全国各県の系列局にネットワークを結んでいる。

2016年3月期の連結決算では売上高約4148億円であり、フジ・メディア・ホールディングス(フジテレビ)に次いで業界2位の売り上げ規模を持つ。15年の年間平均視聴率では、全日帯(6時~24時)、ゴールデン帯(19時~22時)、プライム帯(19時~23時)の3部門全てでトップとなり、年間・年度共に2年連続「視聴率三冠」を獲得している。読売新聞グループが親会社であることから、読売巨人軍の試合を中心にプロ野球やプロレス中継などスポーツ番組やバラエティー番組に強みを持つ。

許認可規制に守られてきた放送業界

日本ではこれまで地上波民放への参入は厳しく規制され、テレビ局は新聞社に系列化されていた。90年代にはCATV(有線テレビ)や衛星放送が登場したものの対等のライバルとは程遠く、新規参入がほとんどなかったため、長年にわたる内部留保の蓄積により財務内容は極めて安定していた。そのため、キー局を買収するのは膨大な資金が必要で、かつその膨大な資金を調達する仕組みも十分ではなかった。

これまで放送局のM&Aは日本の風土にはなじまず、アメリカの三大ネットワークの一つであるCBS社がソニーにレコード部門を売却したような異業種と放送局のM&Aが行われる可能性は極めて低かった。

しかし近年、放送局の収入の柱である広告収入は、今後大きな伸びを期待することが難しくなっており、ネット事業への展開や、コンテンツとネットとの連携が今まで以上に求められるようになっている。また、ライブドアがフジテレビを買収しようとしたことを機に、放送局がこれまで許認可規制という大きな壁に守られてきたことが露呈し、今後のグループ企業との連携のあり方を見直すきっかけとなった。

日本テレビ放送網が行った主なM&A

年月 内容
2000.11 日本テレビ、三菱商事、日本衛星放送(WOWOW)、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモの5社は、CSデジタル放送のプラットフォーム、およびこれに附帯する事業の事業化調査を実施するワン・テン企画に1億円出資(株式25%)し設立
2001.4 日本テレビと三菱商事は中華圏向け新規メディア・コンテンツ事業を行う企画会社アジア・ワンを500万円の折半出資(50%)により設立
2001.9 共同出資会社でCSデジタル放送プラットフォーム事業構築会社プラット・ワンの第三者割当増資の4%を1億9200万円で引き受け。これにより出資比率は21%から25%となる
2002.9 ITX子会社で民間の衛星通信事業者で、企業や官公庁向けの通信サービス、一般企業向けの電気通信事業などを行うJSATの株式を5.87%を約103億円で取得
2005.4 日本テレビグループは、ソニーグループのブロードバンド・コンテンツ・ポータルAIIの第三者割り当て増資を引き受け、株式5.58%を4億1300万円で取得
2005.12 讀賣テレビ放送の株式15.59%を5億7200万円で取得
2006.4 NTTドコモとの放送・通信連携サービスに関する業務提携、および有限責任事業組合(LLP)を設立。NTTドコモと50億円で折半出資(50%)
2006.10 日本テレビは日本ビジネスシステムズと合併で情報システム専業子会社日テレITプロデュースを設立。出資比率は80%、8000万円の投資
2007.11 日本テレビはリクルートと業務・資本提携。リクルートの株式1.8%を約100億円で取得
2007.11 日本テレビはセブン・イレブン、電通とともにテレビ、インターネット、小売業(実店舗)を連動させた、新しいショッピングポータルサイト(電子商店街)を運営する日テレ7を株式51%、2億4000万円出資し設立
2009.1 インデックス・ホールディングスから日活の株式の34%を23億9000万円で取得
2009.9 ヤフーの子会社のGyaOの株式の7%を譲り受けることで合意
2009.10 経営資源の選択と集中の観点から、子会社である日本テレビフットボールクラブの全株式を東京ヴェルディホールディングスに譲渡
2009.12 経営資源の多角化から、実質的に昭栄が保有する土地(東京都千代田区四番町5番地9)を231億5000万円で取得
2011.2 マッドハウスが第三者割当増資により発行する新株を約74%を10億円で引受け子会社化。出資比率は10.4%から84.5%となる
2014.1 タカラトミーが保有する株式のうち、発行済み株式54.3%を取得し子会社化
2014.2 日本テレビは米国の定額動画配信サービス「Hulu」の日本事業を取得
2014.12 ティップネスの全株式を238億8000万円で取得し完全子会社化
2015.5 日本テレビはバスキュールとスマートテレビ、スマートデバイスをメインとするHAROiDを設立

視聴率に左右される民放局の業績

民放各社にはNHKのような受信料収入が無いため、企業からの広告収入、番組販売収入である放送関連事業収入と、DVDの販売やイベント開催、映画制作などの放送に関する事業以外の事業収入に分けられる。特に広告収入は売り上げ全体の7割~8割を占めており、これまで放送業界ではいかに広告収入を増やしていくかということが重要視されてきた。

日本テレビの業績推移を見ると、売り上げはおよそ3000億円~3500億円とほぼ横ばいで推移しているものの、当期純利益の変動はおよそ50億円~350億円と非常に激しくなっている。こういった利益の変動要因となっているのが視聴率であり、CM枠という言葉があるように、高視聴率の番組になるほどCM枠の確保を競うようになり値段も高くなる仕組みになっている。そのため、民放局にとって高視聴率番組を持つことがいかに重要であるかが分かる。

日本テレビの業績推移と視聴率の関係を見てもそれは明らかで、99年~02年までの利益率が非常に高いのは94年から「年度視聴率四冠王」を9年連続で達成していたためである。そして、03年以降の利益率が急激に下がっているのは、03年10月に明るみに出た「日本テレビ視聴率買収事件」(注1)によるものである。その後、09年にかけて底を打ち、近年は14年、15年に2年連続で年間・年度平均視聴率三冠王を獲得し回復傾向にある。

注1:不正工作を行ったのは日本テレビのバラエティー番組プロデューサー。視聴率調査を行うビデオリサーチ社の調査サンプル世帯に謝礼を渡し、自分が制作した番組を見ることを依頼、視聴率を上げようとしたもの(オールアバウト「前代未聞!視聴率測定世帯買収事件 視聴率のためなら悪魔に魂を…」よりhttp://allabout.co.jp/gm/gc/198928/)。

■業績推移

放送事業以外の分野への多角化を図る

05年、ライブドアや楽天による民放局への敵対的買収の試みが、これまで許認可規制に甘んじてきた民放局の経営を揺るがすとともに、番組などの民放局が持つコンテンツとITを融合させるきっかけとなった。

例えば、ライブドアは05年2月からフジテレビの筆頭株主であるニッポン放送の株を大量に取得することで、フジテレビの株を手に入れ支配下に置こうとした。ライブドアの目的はフジテレビの持つコンテンツを自社の事業に転用しようというものだった。結果的にライブドアとフジテレビは業務提携することとなり、ニッポン放送はフジテレビの完全子会社となったが、楽天によるTBSの株式大量取得も同様で、これらの事件をきっかけに民放各社は買収防衛策の必要性と、自社コンテンツとITの融合化の必要性に迫られる。日本テレビもこれらの事件を受け、買収防衛策を講じるとともに、コンテンツの2次利用・多角的配信を目指すということを経営方針の一つに掲げ、「テレビ局」から「トータルメディア企業」を目指すマルチコンタクトポイント戦略という戦略を取っている。

例えば、モバイル・インターネットによるコンテンツ配信、地上波放送、衛星放送、通信放送などの伝送路に、日本テレビのコンテンツを積極的に配給していくというものである。また、この戦略には放送以外の収入を拡大していくという要素も含んでおり、通信販売事業とインターネットや、テレビ番組を連動させた事業展開や、第2日本テレビ(注2)のオリジナルコンテンツの充実を目指している。他にも、アニメなどの映画を地上波と連動させて放送を行うことで放送外収入を拡大するという動きがあり、例えば話題作の特番を地上波で放送し、映画の集客数増加を促すなど、積極的に映画と地上波の連携を図っている。

注2:日本テレビ放送網が運営するインターネットによるビデオオンデマンド事業。現在は「日テレオンデマンド」に統合されている。

こういった動きと同時に、ネット関連企業のM&Aや他企業との共同出資も行っており、14年2月には有料会員数約120万人(15年12月時点)を抱えるHulu Japanを買収している。また、15年5月にはバスキュールと合併会社HAROiDを設立し、テレビとインターネットをつなぐアプリの開発に力を入れようとしている。

一方、日本テレビは事業の多角化を進めるにつれ、資産は増加しているもののそれが売り上げに反映されていないという課題も抱える。99年3月期から直近の決算期を比較しても総資産、純資産共に倍以上になっているものの、売り上げや利益はほぼ横ばいでの推移となっている。これは、マルチコンタクトポイント戦略を推し進めるばかりで、売り上げにつながる事業展開ができていないということを示している。

今後、日本テレビに限らず民放各社が放送関連事業以外の事業への多角化を図ろうとする中で、日本テレビが現在の放送業界での地位を確立するためには、トータルメディア企業としてこれまで行ってきた経営が正しいものだったのかという見直しと、今後のM&Aも含めた各事業の体制を見直す必要があるといえる。

■総資産、純資産、自己資本比率の推移

トータルメディア企業になるために求められる戦略

放送業界の歴史は、テレビという強力なメディアと許認可規制によって長らく限られた民放局の独占状態にあった。しかし、インターネットなどの新たなメディアが登場したことにより、民放各社はテレビを中心とした放送以外の事業の拡大が重要なテーマとなった。それに伴い、M&Aの重要性も増しており、放送局がこれまで培ってきたコンテンツ制作のノウハウを生かし、さまざまなメディアへのコンテンツ配信を行うことができるようなシナジー効果のある企業とのM&Aが、テレビ局からトータルメディア企業へと進化する上で重要な要素となっている。

このような大きな転換期にある放送業界で日本テレビが生き残るには、今後ますます放送以外の事業への多角化と、これまで以上に効率的な経営が求められている。仮に自社番組の視聴率を一時的に上げたとしても、減少傾向にあるテレビ視聴者数の流れを変えることは難しく、新たなコンテンツを創出しインターネットなどのメディアを活用することが求められている。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2016年8月22日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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