【映画評】ケンとカズ

高校からの腐れ縁のケンとカズは、郊外の自動車修理工場で働きながら、先輩ヤクザで元締めの藤堂の下、覚醒剤の密売をしていた。ケンは恋人の早紀が妊娠したことから、子どものために人生をやり直そうと考えている。一方、カズも認知症の母親の問題を抱えている。言えない秘密を抱えた二人の溝は確実に広がっていた。ある時、カズは密売ルートを増やすため、敵対グループと手を組もうと画策。反対するケンだったが、暴走するカズはケンを離そうとせず、さらに元締めヤクザに目をつけられ、二人は次第に追いつめられていく…。

第28回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門で作品賞を受賞した青春犯罪ドラマ「ケンとカズ」。激しい暴力と青春の苦みが混在する作風は、初期の北野武映画を思わせる。裏社会で覚醒剤密売に手を染める若者という、共感が難しい主人公たちだが、彼らのヒリヒリするような生き様は、緊張感にあふれていて目が離せなくなる。せりふや説明もほとんどなく、そっけない風景の中、決して幸せにはなれない若者たちがもがき続ける96分は、見ているこちらまで息苦しくなった。

ケンとカズをそれぞれ演じるカトウシンスケと毎熊克哉の二人は、ほぼ無名の役者だが、アップを多用した映像にしっかり耐える面構えがいい。監督の小路紘史はこれが長編デビューの新人だそう。絶望や死と隣り合わせの希望のない日常、その中にふと紛れ込む穏やかな瞬間のまぶしさを、乾いた映像で活写してみせた。暴力、犯罪、裏切り。最底辺で生きる最低の若者たちがみせる生の息吹はこんなにも切ないのだ。意表をつきながら鮮やかな幕切れを演出したラストが心に残る。
【70点】
(原題「ケンとカズ」)
(日本/小路紘史監督/カトウシンスケ、毎熊克哉、飯島珠奈、他)
(ノワール度:★★★★★)


編集部より:この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年8月25日の記事を転載させていただきました(動画はアゴラ編集部で公式YouTubeよりリンク)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。