写真の裏にストーリーがあるから農家の魅力が熱伝導する

2016年08月28日 06:00

公文2

どうも新田です。なんだか私が農業の話を書くのに違和感を覚える方も多いと思うんですが、2年前には東洋経済オンラインで農業の世界に新風を吹かせる人たちを追いかけた連載を持っていたことがあります。

で、きのうは、連載当時に取材させていただいた写真家の公文健太郎さんが写真展を開かれたと聞いて、品川にあるキヤノンのギャラリーに行ってまいりました。

公文さんは元々、広告系のお仕事をされていて、堀江貴文さんのベストセラー「ゼロ」など書籍のカバー写真も担当されたそうなんですが、農協の雑誌「家の光」で連載を持ったことがきっかけで各地の農家を訪れて取材されるようになり、農業やそこで働く人々の魅力にはまって、ライフワークとして農業の現場を探訪。近年は、米系タバコ会社「サンタフェ ナチュラルタバコ ジャパン」がCSR活動で始めた、日本の有機農業を応援する「Share the Love」のサイトで、耕作が難しい有機農業にチャレンジする人々の生きざまを追いかけてきました。そのあたりの詳しい経緯は、東洋経済オンラインで書いた当時の記事を、お読みいただければ幸いです。

農家の生き様をネットで伝える男たち 社会・消費者との新しい関係性構築 | 日本の農業 – 東洋経済オンライン http://toyokeizai.net/articles/-/46105

で、きのうの写真展はいわば記事の後日談として見届けるような思いで伺いました。記事の末文にも当時書きましたが、農家をテーマにした写真展を開くのが数年来の目標で、“農業カメラマン”としてのこの6年余に渡る「集大成」に相応しい力作が並んでいます。きのうは写真展がスタートして最初の週末ということで、御自身自ら来場者の方に作品をご紹介されておりました(演出上、あえて会場を暗くなさっていたので、私の撮影技量ではうまく対応できず、ゴメンなさい、泣)。

公文1

公文さんが農家を撮る時には自分で課していることが、できるだけ「ありのまま」に撮るということで、若い頃の私のように田舎勤務の新聞記者にありがちな、野菜を持ってニッコリしてもらう的な演出はやりません。しかも、「ありのまま」はレンズの選択にも反映されていて、35ミリレンズでシンプルに撮ることを心がけています。35ミリは人間の肉眼で見た通りに撮れるので、裏を返せば撮影するカメラマンの技量そのもので写真の出来栄えが決まってしまいます。

顔見知りの農家さんによく通うのも彼の熱心なところですが、アポはあらかじめ取らず、訪問直前になって「近くに寄ったから来ました」というようにしているのですが、これも「農家の方々は、アポを先に取るとものすごいご馳走をされてしまう」のだそうで、気遣いだけでなく、やはりここでも「ありのまま」の普段の様子を撮ることへのこだわりなのだと感心させられました。

会場に入ると、全国津々浦々歩き回った力作が約180点。入り口から、春→夏→秋→冬と四季の順番で、最後は「春を待つ農家の晴れやかな表情」で締めくくる感じで、いわばストーリー仕立てになっているのですが、チラシ等の写真から一部紹介させてもらいますと、こんな見事な風景写真から。岩手・遠野の稲架(はせ)づくりの様子。

岩手

時には、こんなお昼寝のひと時も抑えたりと、農作業の様子や農家の真剣かつ時には穏やか表情をとらえております。

昼寝

この稲妻の写真の裏話も面白い。ある時、農家さんから「稲妻は字にある通り、稲の妻だから縁起がいい。雷が落ちると豊作になる」という昔からの伝承を聞いたのがきっかけだったとのこと。これを35ミリで撮っちゃうのは、やはりプロの腕です。

稲妻

会場中央には、「Share the Love」のコラボで撮影した有機農家の写真もあり、これがまた圧巻です。農薬を使わずに様々な品種を育てる有機農家は栽培が本当に難しく、特に苦労された「開拓者」世代の生きざまを切り取ろうとする公文さんの作品の迫力はぜひ会場でご覧になっていただければと思います。

公文5

しかし撮影する側も過酷です。沖縄の離島でサトウキビを収穫中の畑農家を取材した際、作業を手伝い始めたらカマで手を切って負傷。ある時は田んぼで底なし沼のような深みにハマって農家さんに助けてもらったこともあるのだとか。

公文3

公文さんが案内されていた中で、印象に残ったのが、秋田のジュンサイ農家さんの一枚。ジュンサイって、ヌルヌルした食感で知られる日本料理の食材にも使われる浮葉のあれです。

夕日が射す中、舟の上で作業をしている女性農家を撮った一枚は「リベンジ作品」。雑誌の取材で最初に訪れて撮影し、好天にも恵まれた自信作を撮ったつもりが、「あの写真はがっかりした」と言われたのだとか。

理由を尋ねると、彼女は取材時に持病の心臓の調子が悪く、「弱ったことが写真に出ている」と明かされたそうです。そこで公文さん、再撮影を希望して、次に訪れると、前回撮ったのと同じ美しい夕日が現れて、見事にリベンジを果たしたということです。公文さんの迫真へのこだわりを象徴する一枚ですね。

ほかにも「この一枚は通りがかりで気になって、帰りの飛行機の時間が迫っていたが、車を1キロくらい走らせた後で戻って撮らせてもらった」みたいな話もありました。かつて宮城・気仙沼を訪れた際に気になったまま立ち去った場所が、震災の津波で流されたことから「自分はなんのために写真家をやっているのか」と悔いた経験をして以来、直感的にこれだと思った農家さんを見たら立ち止まるようにしているそうです。

一枚一枚の写真の向こうにあるエピソード、そして、それらが織りなすヒューマンストーリーを聞かされると、農業や農家の魅力、それらを追いかける公文さんの熱が立体的になって伝わってきます。TPPや農協改革などで揺れる農業の現場ですが、いまだからこそ撮れる風景を求めて各地を歩き続ける公文健太郎さん渾身の作品集、ご覧いただければ幸いです。

写真展は、10月11日(火)まで(第1、2週は日曜営業中、その後は日曜定休)、品川駅港南口のキヤノンギャラリー S(東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー1階)。入場無料。次の土曜(9月3日)もご本人が来場してギャラリートーク、17日(土)にはトークショーもやるそうなので、直接写真にまつわるストーリーを聞いてみると何倍も楽しめるはずです。 http://cweb.canon.jp/newsrelease/2016-07/pr-kumon.html

ではでは。

<新田執筆;農業・地方創生関連記事>
・農家の生き様をネットで伝える男たち(東洋経済オンライン)
http://toyokeizai.net/articles/-/46105
・ヤンキーの気合い、日本の農業に挑む(同)
http://toyokeizai.net/articles/-/45578
・「女子力」が農業を生まれ変わらせる(同)
http://toyokeizai.net/articles/-/46808
・地方創生に女性の力はマジ必要です(個人ブログ)
http://nittatetsuji.com/archives/44617029.html
・地方創生にMBAなんか要らねー(同)
http://nittatetsuji.com/archives/43248834.html

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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