【映画評】セルフレス/覚醒した記憶

Self/less

68歳の大富豪のダミアンは、末期がんで余命を宣告される。どれほど偉大な知性と財力、カリスマ性で社会を操ってきた男も死への恐怖には勝てなかった。そんなダミアンに科学者のオルブライトが、最新技術で培養した若く健康なクローンに頭脳を転送するという非合法の施術を持ちかける。莫大な料金と引き換えに手に入れた若い肉体とエドワードという新しい名前で人生を謳歌するダミアン。だがオルブライトから手渡された副作用を抑える薬を飲み忘れた時、不可解な幻覚を見たことから、実はダミアンの身体はクローンではなく、妻と幼い娘がいる元兵士の肉体だったという事実を知る…。

病いに蝕まれた肉体から頭脳だけを健康な肉体に移した男が謎の記憶に悩まされ驚愕の事実を知るSFアクション・スリラー「セルフレス/覚醒した記憶」。人間には昔から「不老不死」や「第二の人生」という見果てぬ夢があるが、本作ではそれは、富裕層のみが手にできる贅沢品として描かれる。“新品の身体”のクローンではなかったというのは誤算だが、特殊部隊の元兵士の肉体は、主人公ダミアンに、知性、財力に加えて、若く強靭な肉体と戦闘能力までも与えたというわけだ。他者の記憶を手掛かりに命がけで悪事を暴くストーリーは、どこか「トータル・リコール」を思い出すもので既視感満載。後半は、秘密組織から命を狙われながら、元兵士の家族を守りつつの逃避行という平凡なアクションへと変貌する。正直、ご都合主義も多いし、新しい肉体を手に入れたことによる違和感のジレンマも表層的で心理描写はほとんど活きていない。

それでも、どれほど手垢がついていようとも“記憶”にまつわる物語というのは、どこかセンチメンタルな魅力があるのだ。何よりも意外なのは、この映画の監督が、個性的な映像派のターセム・シン監督であることだ。過去作に見られるようなアーティスティックな映像はなく(それでも映像美はひそかに見え隠れする)、あえてストーリーを語ることに専念したそう。意欲は買うがやっぱりターセム・シン監督はビジュアル派なので、映像で語ってほしい。
【50点】
(原題「SELF / LESS」)
(アメリカ/ターセム・シン監督/ライアン・レイノルズ、ナタリー・マルティネス、マシュー・グード、他)
(既視感度:★★★★☆)


編集部より:この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。