露正教会内でポケモン探しは厳禁

長谷川 良

ロシアで21歳のビデオ・ブロガーが2カ月間の未決拘留に処された。モスクワの5日のメディア情報によれば、ロシア人ルスラン・ソコロブスキーさんはロシア正教内で「Pokemon GO」に興じ、ポケモン探しをして、その様子をビデオに撮ってネットに流したことから、国民煽情罪、宗教感情への冒涜罪に当たるとして複数年の有罪に処される可能性が出てきたという。

▲Pokemon GO

▲Pokemon GO

モスクワのロシア正教会のWladimirLegojda広報官は、「昨年1月にテロの襲撃を受けた仏週刊紙『シャルリー・エブド』に通じる恣意的な挑発だ」と批判している。

ソコロブスキーさんは8月中旬、エカテリブルクの正教会内でポケモン・ハンターをし、そのシーンをネットに流した。同ビデオにはこれまで90万件のアクセスがあったという。大ヒットだ。青年自身は無神論者だという。現地の正教会関係者は、「ブロガーと話し合う用意はある。彼の釈放のために努力してもいいが、そのためには先ずビデオをネットから外すべきだ」と説明しているという。

そういえば、ロシアで2012年、モスクワの救世主キリスト教会で「反プーチン」ソングを歌い、フーリガン行為に問われ、逮捕された3人の女性パンクバンドに対して2年の有罪判決が下されたことがあった。その罪状は今回と同様、正教徒が崇拝する聖堂の冒涜行為だった。違いは、今回のポケモン探しとそのビデオ撮影には反プーチンといった政治的メッセージはないことだ。

ちなみに、信者の宗教感情への冒涜に対し、2012年実施された世論調査では、ロシア国民の約49%は信者の宗教心を傷つけた場合、厳罰に処すべきだと考え、反対は約34%だった。すなわち、宗教感情の冒涜は許されないと受け取るロシア人がほぼ過半数を占めているわけだ。欧米諸国では女性パンクバンドの時、プーチン政権の人権蹂躙を批判する声が強く、宗教感情への冒涜に対してはあまり関心は払われなかった。

参考までに、ソコロブスキーさんのような不祥事の再発を防ぐために、プーチン大統領を含むロシア現指導部の思想的世界を少し紹介しておく。ロシアの代表的論客、ロシア正教会の超保守派聖職者チャプリン大司祭は「経済的、社会的革命が近い。革命は過剰な個人主義、物質主義を破壊する。その革命の第一歩はロシアから始まる。我々の最大の敵は米国でも北大西洋条約機構(NATO)でもない。金のことだけを考えて生きている凡人だ」と指摘し、「社会主義は世界の到る所で広がっている。社会主義は最良の社会秩序だ。社会主義の唯一の欠点は神を失ったことだ。それを修正さえすれば、ロシアは理想的な秩序に近づける。神の意志によって主導された世界だ」と述べている。

「Pokemon GO」の話としては少々堅苦しくなったが、ロシア指導部にとって「Pokemon GO」は資本主義社会のシンボルであり、それを正教会内で興じることはロシア文化への挑発と受け取られる危険性が出てくるわけだ。

欧米メディアは女性パンクバンドの時のように人権の擁護を振りかざして現ロシア指導部を批判すべきではない。ソコロブスキーさんの行為は宗教関連施設への明らかに冒涜行為だからだ。ロシアを旅行する日本人旅行者も正教会内ではポケモン探しをしないように注意すべきだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年9月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。