「生産据置」合意にサウジ・イラン対立の影が

FTがシンガポールから興味深いニュースを配信している。日本時間で9月7日(水)17:30ごろにWeb版に掲載された “Iran targets pre sanction oil output before considering freeze” と題する記事だ。

この時期、シンガポールでは毎年、業界コンフェランスが開かれている。”Asia Pacific Petroleum Conference” と銘打たれ、2月のロンドンにおけるIP Weekのアジア版とでも言うべきものだ。産油国からも大手石油会社からも、もちろんオイルトレーダーたちも金融筋からも、それぞれ幹部が集い、公式、非公式の会合が連日開催される。業界人にとっては、ここにこそ「仕事の種」が転がっている。

この会合に出席していたイラン国営石油(NIOC)の国際部門担当役員Mr. Moshen Ghamsariが次のように語ったそうだ。

・イランの原油生産は制裁前の水準にだいぶ近づいたが、まだ届いていない。
・制裁前は400~420万B/Dほどだったが、いまは380万B/D程度。
・(イラン南西部の)West Karoun油田の生産が順調に推移すれば達成できる。
・7月の輸出量は210万B/Dだったが、9月には220万B/Dになるだろう。
・West Karounの生産が増加すれば、年末には250万B/Dになるだろう。
・(9月末のアルジェリアにおける)「生産据置(output freeze)」に関する協調会議に参加するかしないかは、ザンガネ石油相が決めること。
・ザンガネ石油相にとって政治的な問題である。

Neil Humes記者は、さらに次のように書いている。
・ザンガネ石油相は今週初め、50~60ドルになって欲しいと述べ、慎重ながらも協議を後押しする姿勢を示していた。
・4月のドーハ会議が決裂したのは、イランの不参加が主因だった。

この記事からも分かるように、9月末にアルジェリアで「生産据置」で合意する経済合理性は十分に存在している。サウジ、イラン、ロシアなど、輸出量の多いほとんどの産油国が生産能力いっぱいの生産をしているからだ。「生産据置(output freeze)」合意は、現状追認でしかない。

だが、Mr.Ghamsariも示唆しているように、経済合理性以外に政治的要因が存在することを無視することはできない。

今週初め、G20が行われた中国・杭州で、ロシアと市場安定化のため協調することに基本合意したサウジだが、一方で「生産据置合意は不要」と発言する背景には、政治的配慮があるとみるべきだろう。

サウジのメッカおよびメジナへの聖地巡礼は、世界中のイスラム教徒にとって、生涯に一度は行うべき宗教的義務とでもいうべき大行事だ。

今週末から始まる今年のハジ大巡礼に際し、このほどサウジ政府はイラン人イスラム教徒の入国を許可しないことを決定した。これに対しイランのハメネイ最高指導者はサウジ王室を激しく弾劾し、「神の客人に対するサウジ支配者たちの抑圧的な態度は、二つの聖地の管理と大巡礼の問題について、イスラム世界における根本的な再考を迫っている」とまで述べている。アルジェリアにおける協議が近づいて来る中で、ハメネイ師が次にどのような指示を出すのか、注視する必要がある。

このように、サウジ・イランの政治的対立の行方が、当面の原油市場の行方にとっても最大の焦点になってくるだろう。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年9月7日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。