同時多発テロ事件から15年、米経済に落とす影

2016年09月11日 06:00

9・11

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当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は同時多発テロ15周年を掲げる。抄訳は、以下の通り。

同時多発テロ事件、米経済に残る爪痕—9/11’s Lingering Toll on the U.S. Economy

勇気、それはiPhone 7をリリースしたアップルが使った言葉だ。iPhoneからヘッドフォン・ジャックを外すという人類の大躍進についての表現だが、まるでフランクリン・ルーズベルト米大統領の就任式での発言「我々が恐れるべきは、恐怖そのものだ」のような扱いだった。

ワールド・トレード・センターや米国防総省をテロリストが攻撃した2001年9月11日から15年を迎え、ロウアー・マンハッタンからバージニア州、ワシントンD.C.で見受けられた真の勇気が思い出されることだろう。この時、平和という配当が失われた。冷戦が集結した後、新たな戦いが始まり富を吸収していったのだ。

あれから、米経済は低成長時代に突入した。労働参加率や労働生産性で顕著に示され、労働参加率は1970年代以来の低水準にあたる63%を割り込んだ。企業が投入する資本や労働力で図る労働生産性は2004年、つまり金融危機以前から低下をたどる。今まで数々の仮定が提示され、ノースウェスタン大学のロバート・ゴードン教授はインターネットやテクノロジーの進化が1世紀前ほど経済に革新的なインパクトを与えていないと説く。

その他のエコノミストは、対テロ戦争を低成長の一因に挙げる。テキサス大学とアラバマ大学のトッド・サンドラー教授とウォルター・エンダース教授は1)テロ攻撃による直接的なコスト、2)間接的なコスト、3)セキュリティ強化による支出拡大、4)リスク・プレミアム上昇による株安——などを研究してきた。著書”テロの政治経済学(The Political Economy of Terrorism)”では、「継続的なテロ活動に対応するため政府は安全保障費用を引き上げねばならず、そうした支出は成長全体を下押しするため個人の資本形成を低下させる”と指摘する。

アインシュタインの言葉「数えられるものすべてが大事なわけではない大事なものすべてが数えられるわけではない」通り、対テロ支出がどれだけ生産性を押し下げ、成長に悪影響を与えたかは不透明だ。しかし、空港での身体検査が厳格化されたように、時間とカネが浪費されていることは間違いない。自由はタダではなく、コストが掛かる。我々は、今でも同時多発テロ事件の影響にさらされていることは間違いない。

天気予報でレーバーデーに北東部をハリケーンが直撃すると言われていたが、実際には免れた。しかし、ウォールストリートには9日に衝撃が訪れた。ダウは400ドルも急落(2.1%安)、S&P500やナスダックも2.5%沈んだ。時価総額が6500億ドル相当が吹き飛んでしまった。

S&p500、7月からのサポートだった50日線をあっさり抜け大幅安。
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(出所:Stockcharts)

世間で言われるところでは、9月利上げへの恐怖が急落の背景とされる。米連邦公開市場委員会(FOMC)の投票メンバーであるボストン連銀のローゼングレン総裁が利上げを支持する発言を展開したためだ。おかげで米2年債利回りは0.78%へ上昇、FF先物市場の9月利上げ織り込み度は週半ばの22%から30%へ上昇した。20〜21日開催のFOMCを控え、来週12日に予定するブレイナードFRB理事の講演に対しても、推測が広がった。8日に欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が定例理事会後に追加緩和を発表しなかったことも響いた。日本でも大規模な国債買い入れでカーブがフラット化し過ぎた懸念から買い入れを縮小させるとの懸念が生じ、長期債の利回りが上昇し始めている。

9月利上げへの恐怖は、配当利回り銘柄に波及した。公益事業セレクト・セクター SPDRファンド(XLU)は3.8%安となり、直近高値から9%も落ち込んでいる。iシェアーズ米国不動産ETF(IYR)も4%安を示し、iシェアーズ米国住宅建設ETF(ITB)も3.9%安を示す。パワーシェアーズ  S&P500ロー・ボラティリティ ETF(SPLV)も例外ではなく、3%下落した。

S&P500は2127.81(2.4%安)で引けを迎えた。週足では2月5日以来で最大の下げを記録するなか、エバーコア・ISIのテクニカル・アナリストであるリチャード・ロス氏は分岐点に差し掛かったと指摘する。8月15日につけた最高値達成は誤ったサインと捉えられ、終値の2130割れは7年半に及んだ強気相場の終焉を意味しかねないためだ。労働生産性が低下中にも関わらず米株割高感が高まり、エマージング株が高値をつけ、信用スプレッドが縮小していれば、なおさらだ。

利上げ観測台頭による米株急落劇を続けば、利上げ見送りを余儀なくされるかもしれない。イエレンFRB議長率いるFOMCが利上げを決断した2015年12月、米株は安定的だった。米大統領選を控える事情もあり、フットボール開幕の時期に合わせたFOMCではパント(攻撃権を失いつつも、ボールを前進させる行為、即ち利上げを断念するという意味)を決断するのではないか。

——ボストン連銀のローゼングレン総裁の発言だけでここまで下落するのか、というほどの急落に筆者も驚いたものです。確かに米8月雇用統計が鈍化し、米8月ISM非製造業景況指数が分岐点割れを示したというのに、ハト派と目された投票メンバーが9月利上げを連想させる言葉を口にすると、誰が予想したでしょうか。

ただし、ローゼングレン総裁は「9月利上げ」を具体的に指したわけではありません。また、同じ日にCNBCのインタビューに登場したタルーロFRB理事は、9月利上げに慎重な姿勢を貫きました。ブレイナードFRB理事と並ぶハト派であり、タルーロFRB理事の発言を踏まえればブレイナードFRB理事が通常運転から外れ9月利上げの観測気球を上げるとは想定し難い。特にこの2人の理事がビル・クリントン政権で大統領補佐官や米国家経済会議のメンバーだった過去を踏まえれば、米大統領選で足を引っ張るような見解を述べる可能性は低いのではないでしょうか。

(カバー写真:John St John/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年9月10日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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